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2015年12月11日金曜日

「酒の呼び名」



♪〜春に春に追われし 花も散る キスひけ キスひけ キス暮れて どうせ 俺らの行く先は その名も 網走番外地。
大スター高倉健さんはこの曲を歌った映画から始まったといってもいいと思う。

映画の題名は「網走番外地」。かつて網走刑務所は無番地でも郵便が届いた。
つまり番外地であった。曲の中にあるキスとは愛し合った者同士がするものではなく、魚の鱚(きす)でもない。お酒のことである。
その世界では酒を飲んで酔っ払うことを酒(キス)グレるという。
キスひけとは酒を飲むという意味である。

昨日久々に早く家路についた。
新橋駅のいちばん品川寄り改札口に私はいた。
キオスクで新聞を買い券売機に向かった。午後6時30分頃であった。
駅は人の群れであった。券売機に近づくと、人の群れがパクッと二つに割れた。

何故か(?)そこには思い切りキスグレたおっさんがいた。六十歳位だろうか。
岸部一徳さんに似ていた。ウリャーとか、バーローとかウィーと言いながらヨタヨタし、右手に持ったワンカップの酒をゴクッ、ゴクッと飲んでいる。
左に傾くと左の人の群れが後ずさりし、右に傾くと右の人の群れが後ずさりした。

おっさんと私はかなり接近した。上着は身につけていない。
白いワイシャツのボタンは上から三つ目まで開いている。
シャツは黒いズボンからハミ出ている。目はじっとりと充血し座っている。
黒いヒモの靴の後ろを潰して履いている。

“ひと目会ったその日から 恋の花咲くこともある 見知らぬ貴女と 見知らぬ貴男に デートを取り持つ パンチDEデート!”なんて名フレーズで始まった人気番組は桂三枝(現在文枝)さんの「パンチDEデート」だった。

おっさんと私の間は約2メートル。目と目がバッチリ合った。
恋の花など咲く訳はなく、私の怒りの花が満開となった。
何故なら座った目でじーっと私を見捉えたからだ。

ワンカップはロングサイズで、1/3位が残っていた。
ズボンを見るとかなりいい素材であった。黒い靴もなかなかであった。
私は酔った人は嫌いじゃない。

おっさんは、きっとそれなりの地位がある。
しかし酒グセが悪く部下にグダグダ絡んだり、大事なお客さんや取引先にも絡んでは大迷惑をかけるのだ。気が弱く昼間は無口で大人しい。
酒の力を借りないと何も言えず、退社と共に酒をグビグビ飲んで勢いをつける。
とても人間的で正直なのだ。

やがて大トラになって一晩留置所に入れられ朝起きて、ここはどこですか、ワタシはなんでここにいるんですかと正座してご迷惑をかけましたと謝罪する。
奥さんがあなたまたやったのと、もらい下げに来る。

さて、おっさんはじーっとワタシを見ている。黒のジャケットの胸に、白い鳩のアップリケが付いているのを着ていたので人の群れの中で目を引いたのかもしれない。
白い鳩はかなり大きい。
あるデザイナーが8年位前に平和のジャケットとして限定制作したものであった。
おっさんの目は、私の目からその鳩に向かっていた。

その距離1メートルになった時、私は言ってしまった。かなり大きな声で。
こんな時間からキスグレてんじゃないよと。
おっさんはウィッと息を飲み込んで、すみませんと言った。

作家野坂昭如さんが亡くなったことを家に着いて知った。
この人は大のキスグレであった。
有名なのは大島渚さんの記念パーティの時、壇上に上がるなりモーニング姿の大島渚さんの顔に思いっ切り右のパンチを入れた。大島渚さんのメガネがずり落ち、鼻に引っかかった。かなりヨロヨロとしたがマイクで応酬、野坂昭如さんの頭を殴った。

その時大島渚さんの奥さんであった女優小山明子さんが、まったく動じることなく二人の間に分け入って、キスグレた野坂昭如さんをなだめた。
小山明子さんのその姿は出来た女房の代表と言われた。

忘年会のシーズン、あの街この街にキスグレた人が出る。
かつて私も大キスグレであった。今では二合ほどの酒でいい気持ちになってしまう。
時々昔が懐かしい。あのおっさんはどこへ向かったのだろうか。
きっといい人だったのだ。上着はどこへ忘れてしまったのだろうか。

2015年12月10日木曜日

「昨日はイマジン」




ジョン・レノンが凶弾を撃ち込まれて、35年目となった。
昨日は命日であった。生きていれば75才となっている。
現在の世界を見てどんなメッセージを詩にしただろうか。
聖地ストロベリーフィールドは、彩やかな花々とイマジンの歌で暴力によるアメリカ的解決法を断じたことだろう。

私がアメリカを体現したのは1516才になった時だった。
輩が横浜で面白いパーティーをやっているから行こうと言った。
先輩はスカイブルーのタウナスという外車に私を乗せて横浜の夜に向かった。

着いたところは横浜の外れであった。リバーサイドに突き出た店だった。
店の外に大きなアイスボックスがあり、その中にバドワイザーのビール缶やコカコーラの瓶がぎっしり入っていた。

海軍の兵隊のような白人や、革ジャンを着た黒人、ブルージーンズに黒と白のコンビの革靴、リーゼントヘア、背中に龍が縫い込まれたスカジャンを着たトッポイ連中や、ポニーテールのお嬢さん、娘さんが落下傘のスカートを思い切り広げ、Vネックの派手なセーターを着て集まっていた。

店の中は天井に大きな金色の送風機の羽根があった。
その下のフローリングの上に、ゴチャゴチャになってみんなが踊っていた。
ツイストが主であり、バラードになるとチークダンスになり、男と女は抱き合い、キスをし合っていた。
音楽が流れるがバンドはいない、人と人の間から見えて来たのがジュークボックスだった(先輩が教えてくれた)。

なんだろうと思った。
パチンコ台みたいに思ったが近づくとそこにドーナツ盤のレコードが、ロボットが何かを掴んで取り出すように動き選んだ曲が出ていた。
ワンコインで一曲であった。

それぞれに曲名を探しコインを入れる。
エルビス・プレスリーが、ニール・セダカが、パット・ブーンが、リトル・リチャード、ジェームス・ブラウン、ポール・アンカやザ・プラターズ、ハンク・ウィリアムスにハンク・スノウ。
まるで魔法のようにいろんな曲が一台のジュークボックスの中から飛び出て来た。

ソノシートなんかで聴いていた私は、その頃荻窪で丸福や春木屋のラーメン、珍来のギョーザライスと焼きそば、漢珍亭のモヤシメシ、丸信のワンタンメンライフであった。
いまでいうカルチャーショックを横浜で知ったのであった。

先輩がジュークボックスに入れて見ろとコインをくれた。
不思議なことにそこは平和であった。喧嘩も口論もない、あるのは音楽と踊りと興奮であった。夜が明けるまで続いた。
コカコーラを一気に飲むと、大きなゲップが出て鼻から泡が出て、目から涙が出た。

私が初めてジュークボックスで選んだ曲は、デル・シャノンの「悲しき街角」だった。
今ジュークボックスがあったら、ビートルズの「イエスタデイ」を選ぶと思う。
否、やっぱりジョン・レノンの「イマジン」かもしれない。

音楽のあるところに争いはない。
音楽に国境はない、人種差別もない。
あるのはピースだ。

2015年12月9日水曜日

「握らない味は?」



お前の食べているそれは何だ!
私の隣で「おにぎり」ではなく「おにぎらず」を食べていたら必ずそう言うだろうと思う。おにぎりを三角形に握れるかどうかで男は女性を必要として愛する。
これはいわば日本史のようなものである。

“梅干しは一日の養生”という言葉がある。
ごはんの中に一つ、太陽のような赤い梅干しが入っている。
その近くのごはんには梅干し色がじんわりとついている。
私の持論だが引きこもりや非行防止、あるいは非行悪化防止に母親の手と指で握った梅干し入りのおにぎりが最大の効果があると思っている。

母の手についた水気、塩気、ゾクッゾクッとする梅干しの酸っぱさ、一口食べ半分残し、また一口食べてゾクッゾクッと身震いする。
梅干しを種だけになるまで口の中で転がす、舌の上にのせては舌で転がす。
種をカラカラになるまで口の中で転がす。
ごはんについた梅干しの色の部分は、一気に食べず上手にそこ以外を食べる。
ごはんに海苔が付いていれば極上のおにぎりになり、歯に付いた海苔を最後に舌で楽しみながら味わうことができる。

母親が握ってくれたおにぎりに勝る愛情の料理はない。
私はこれを“正三角形不良防止の法則”といっている。
または“引きこもり脱出推進の定理”ともいう。

◯□ちゃんここ置いておくからねと不貞腐れて部屋で煙草を喫っている、その部屋の扉のところに置いておく。
ババアこんなもん食えっかと野球のボールみたいに投げ捨てられても、それを続ける。
引きこもりの子が部屋の中からメールでババア!ラーメン作れだ、カレー作れだ、チャーハン作れだと日々指示をだす。
その部屋の扉のところに三角形の梅干しおにぎりを置いてあげる、ひたすら根気よく。
鮭でもダメ、明太子でもダメ、おかかや昆布もダメ、イクラなどとんでもない。
梅干しが唯一無二の存在だ。

で、話は「おにぎらず」だ。
これが食に関する調査「ぐるなび総研」の2015年「今年の一皿」No.1になった。
米離れが進む中、自由で斬新なアイデアだと。
おにぎらずは、海苔の上にごはんを敷いて好みの具材を乗せ、海苔の四隅を中心に合わせるように包んで、包丁などでカットする。
ある漫画から生まれたらしい。

これは米離れでなく、親離れを生む。
作り方とネーミングに愛情を感じない。
中にイロイロ入れてカットしたのを見ると“ごはん海苔付きサンド”みたいだ。

私の勝手な想像だが結婚してすぐに離婚する原因は三角形におにぎりが握れるかどうかにある。キミ、明日友だちと釣りに行くからおにぎり四つ握って置いてくれる、なんて頼んで朝みたらラグビーボールや月餅みたいになっている。
えっ、ヤバイ何これ!となりそれが引き金になる。

ネーミングの上手い人に「おにぎらず」に変わるものを考えてほしいと思う。
「ネコいらず」みたいだし。幸い現在まで私の隣で食べている人はいない。
ずーっといないことを願っている。


2015年12月8日火曜日

「一生懸命」

十二月六日(日)茅ヶ崎文化会館大ホールで第31回・東日本大震災復興支援「第九演奏会」がありそれを鑑賞に行った。
午後二時〜三時二十分、アンコールは五回に及んだ。
大ホールはぎっしり満員であった。

茅ヶ崎交響楽団・合唱ちがさき第九を歌う会、指揮/中田延亮、ソプラノ/酒井悦子、アルト/栗林朋子、テノール/榊原哲、バリトン/竹内淳。
合唱団は200名の応募に対し、100%の申し込みがあった。
第九経験者が約85%、全くの初心者が約15%、男性が約80名、女性が約120名であった。小学校五年生から八十歳代の人たちもいた。

数ヶ月合唱指揮の榊原哲先生の熱心な指導のもと、ベートーヴェンに向かい合った。
シラーの詩「歓喜」「楽園」「すべての人々は兄弟」「神」をすばらしいハーモニーで歌った。この催しは第31回目だという。

私は東京から茅ヶ崎に移って三十八年近くになるが初めてであった。
家の前の公園脇にある掲示板に毎年ポスターが貼ってあるのを見ていたが、実にイケナイことに茅ヶ崎交響楽団を見くびっていた。この場を借りてお詫びしたい。

これだけの第九を3000円で鑑賞できるとは(全席自由席、いい席は早い者勝ち)。
一時三十分開場だからその時間に行けばいいと思っていた。
が、愚妻がもっと早く、早くというから仕方なく十二時三十分頃に行った。
そこは行列のできる茅ヶ崎交響楽団であった。
女の子二人、男の子一人の孫を連れて当方は五人編成であった。
行列は老人、初老が70%。中年、青年が20%あとはイロイロであった。

今世界は第三次世界大戦前夜の如くになっている。フランスでは右派が大躍進した。
日本はかつての戦争準備体制の如く言論弾圧が始まり、安倍晋三内閣の支持率が上がっている。出て来ただけでこの世の終わりのような、暗いどんよりした民主党の岡田代表と、ホストクラブの代表みたいな維新の党の松野代表が、マイナスオーラを十分に発揮して並んでいる。

あるTV局の調査によると、民主党の支持率約6%弱、維新の党は約1%、共産党が約5.8%と伸ばしていた。自民は約34%だ。これで戦争は止められるのだろうか。
第九の一致団結した演奏と合唱を観賞していると、ふとナチス・ドイツを思い出し、日本国皇軍を思い出した。

オーケストラは全体主義的であるが、一人ひとりの懸命主義的でもある。
孫の一人があんなにたくさん人がいたら、一人二人が何もしなくても分かんないよねと言った。
違うよ、みんながそう思って一人ひとりサボったら音楽にならなくなっちゃうんだよ。
指揮者だけになっちゃうんだよと言った。ふーんと応えた。
一人ひとり一生懸命生きましょう。みんなが集まれば「歓喜」の歌となるから。

2015年12月7日月曜日

「数字の数々」




暦の上では「大雪」を過ぎた。今年も今日を入れて25日である。
少々数字に腹立たしいのがあったので書く。

伊勢志摩サミットのテロ対策警備予算が340億円を上積みとか。
北海道洞爺湖サミットの総額が約606億円、それ以上になるのは確実、何のために雁首を揃えるのか。伊勢海老食べて真珠をお土産にするにしてもあまりに高いではないか。

あるベストナイン。
一位、自民党議員平均収入は[五千七百十二万円]。
二位の生活の党がなんと[三千九百四十万円]。
以下三位、民主党[三千七百三十万円]。
四位、おおさか維新の会[三千二百七十二万円]。
五位、日本を元気にする会[三千二百五十二万円]。
六位、次世代の党[二千百七十六万円]。
七位、維新の党[二千百三十五万円]。
八位、公明党[千七百七十八万円]。
九位、社民党[九百九十四万円]。
共産党は不明。

オイオイ支持率が0%の政党の議員たちは何をしているのか、声も聞かず姿も見えずの議員たちにいいたい。一般社会では給料ドロボーという。
政党(議員)は就職先となってしまった。
選挙の時以外演説をしない、政治とは演説だといいたい。

財務省が24年度までに三万七千人の教員を削減するという。
国内総生産(GDP)に占める公的支出は、比較的可能な三十二カ国中最下位、第一位のノルウェーの半分位だ。
現財務大臣は国語力に問題ありとして攻められた人、教育の大切さは何より知っているはずである。一番の目的は日教組の弱体化なのだろう。
迷惑なのは生徒たち、親たちだ。

いよいよ忘年会のシーズンに突入、取引先との忘年会は断らずが77%。
体調不良が約6割。身体がだるい、眠気がひどい、首や肩が凝る、仕事の効率が下がったというのが80%以上であった。
一つの仕事を取ること、一つの仕事を守ることは、心身をカンナで削るが如くである。

駅のホームから酔っ払って落下死する人が多い、その7割はベンチに座って眠っていたり、横になっていたりしていて、やおら起きてそのまま直進してしまった結果とか。フラフラとして、落下するよりはるかに多い。
ベンチを線路と並行から直す駅が生まれているらしい。
忘年会のシーズン気をつけねばならない。

映画界が好調だとか、20億円以上の大ヒット作は30本、洋画が復調。
第一位「ジュラシック・ワールド」、第二位「ベイマックス」。
邦画の第一位「映画妖怪ウォッチ誕生の秘密だニャン」。
洋画12本の内11本はシリーズ物かディズニー作品、例外は「アメリカン・スナイパー」のみ。邦画は18本の内10本がアニメ、5本が漫画原作。

気骨のある作品は数あれどヒット作とはならない。
当たりそうな作品をマーケティング的に探しだすのだ。
「トイレのピエタ」、「さようなら」、「お盆の弟」、「岸辺の旅」などいい作品と映画の友は語る。残念ながら見落としてしまった。

レンタルDVD一年間365本を観ることを目標にしてきたが、とてもその数に届かなかった。全く不勉強な年であった。現在集計中なのである。
それにしても漫画家の才能は恐るべしだ。

テレビでは「五」の大量放出だ。
五郎丸、五郎丸、五郎丸だ。私は三郎(丸)、五郎丸に負けてたまるかだ。