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2013年2月12日火曜日

「一分の遅れ」


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悪ガキだった頃いつも仲間と集まる喫茶店があった。
荻窪駅南口、開かずの踏切側の“フジ”である。

一階はスマートボールとラッキーボールの店であった。
一階から二階までかなり急でまっすぐな階段があった。
そこを登りきると赤い公衆電話が一台あった。

午前十一時三十分になるとキッチリ二人のヤクザ者が来た、コーヒー、トースト、ゆで卵のセットを決まって頼んだ。十一時五十五分になると必ず公衆電話の前に一人が立った。後の一人は公衆電話を使用する人を遮った。使用中の人がいた場合は話を止めさせた。


十二時キッチリ電話が鳴る。
一分一秒狂わずに。それは親分からだ。
鳴った瞬間にとり、受話器に向かって最敬礼する。

二人は三十五歳から四十歳くらいであった。
前の日の景品買いのあがりの数字を報告するのである。
ヤリ(一)、フリ(二)、グー(五)など符丁で数字をいって切る。
そしてまた最敬礼をする。もし一発で受話器をとらなければ親分は激怒するからだ。

この親分はやがて府中刑務所で病死した。
二人の男は九州弁であった、親分亡き後生まれ故郷へ帰って行った。
その後スマートボールとラッキーボールは下火となり一階は食堂となったと聞いた(悪ガキはもう止めていた)。

先日東海道線に乗って大船に行った。
列車が一分ほど遅れていた。放送でその事を何度もお詫びしていた。
一分一秒でも送れずにホームに滑り込ませるのが我が国の鉄道だ。
これが守れないと親分ならぬ上司からこっぴどく叱られ反省室みたいなのところに入れられる。日本みたいに時間通りピッタリ列車が来る国は世界広しといえどない。

はじめて湘南の地に引っ越しして来た頃近くの道路にこんな看板があった。
「あわてるなむかしはみんな歩いていた。」
大船駅の一分間にこんな事を思い出していた。

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