身の程知らずのフランスのタイヤメーカーのミシュランが私の地元に近い鎌倉の店に星印をつけていた。
なまじミシュランなんかに星印を貰ってすっかり馴染みのお客に去られて青色吐息の店が東京中ゴロゴロある。田舎から出て来たお上りさん相手とか、外人接待とか、夜の世界のご同伴とか、悪巧みをする代官とお主もやるよのぉーの商人が行く店ばかりなのだ。
鎌倉で選ばれた店は味は何の事はない店ばかり。どっちかというと気取り代、場所代、お上りさんへのお土産代(行ったのよという)みたいなもんだ。
たかだか寿司屋に一人前二万も三万も払うバカが行けばいいんだ。
精進料理なんて坊主達が食べるのにバカ高い値段を払うバカがいけばいいのだ。おそばなんて一気にすすり込むのが正しい食べ方なのにオロオロソロソロ音も立てずに食べるバカが行けばいいんだ。
ここの鰻は天然物で気をつけないと釣り針が入っているだよなんて女の子をデートに誘って本当に唇に釣り針がささり血が出て唇は真っ赤な明太子。今日こそ彼女の唇をなんて考えも水の泡。ネッ、本当だろ天然ものなんだよ。
やっぱりミシュランの星一つ貰っただけの事はあるよななんて店出る頃は彼女は友達から急ぎのメールが入ったのなんて言われてハイサヨウナラ。
やっぱりミシュランの星一つ貰っただけの事はあるよななんて店出る頃は彼女は友達から急ぎのメールが入ったのなんて言われてハイサヨウナラ。
大体出て来た物をいちいち説明する店、店の作りをくどくど語る店、わざわざ肉や海老や野菜なんかを見せに来るところには殆ど裏切られる。
店に入って直ぐミシュランガイドが置いてある店も同じ。
本当に本物の店はミシュランなんて相手にしない。
かえって迷惑だと取材に来ても門前払いだ。常客を優先するからだ。ガイドブック持ってウルサイ、クサイ、ダサイ、ババジジに来られたらたまったもんじゃない。
どうせ一回こっきりの客たちなんだから。
男のプロはいい女性やいい友と会うのは決してミシュラン等に選ばれた店に行かない。
いい店は必ずいい路地裏にあるものなのだ。
ひっそりと何も自慢せずそれとなくある、そして決して高くない。神楽坂とか神田とか四谷とか横浜や鎌倉だって路地裏にある。
なまじミシュランなんかに選ばれてミーハーに喜んでいるとどっと中国人や韓国人がやって来て泣きが入る事だろう。
よく結婚式とかに招待されてフレンチを食べて帰ると何か腹がギトギトする。昨日の鮭の切り身残っていたならお茶漬けでも食べようとなって食べる、鮭茶漬けと漬け物の美味しい事といったらない。
フレンチはソースの味が決め手の料理、世界一お風呂嫌いのフランス人(中国人も風呂嫌い)が香水を発達させた様にソースでかなりフェイク(ごまかし)が出来る料理。毎日食べる事など決して出来ない。胃の中がベトベトになる。
素材と食器と盛り付けで見栄えをよくしてソースで味を感じさせる。だからどこのフレンチも写真に撮ると大差ない。肉と魚と野菜が入ってケーキみたいな気取った料理なのだ。
かの開高健はフランス大好き人間であったが一番旨かったのは露店で買った新聞紙に包まれた白身魚のフライだと書いてあった。