ラーメンにワカメを入れるか入れないかで激論となった。
天下を二分する程の事であった。
ワカメバカメと言って食べた私、塩味が出過ぎてラーメンのつゆの味がいけない方向に行く。
のりが一枚どんぶりのはしに付いているのだから海の味は十分、それにわかめを入れる必要なしと言った。
ところが横から一人の女性が異議ありだと。
何だいあんたはと言いたかったが結構いい感じ何でも東京の雑誌社のラーメン担当とか。
日本中のラーメンを食べ歩いているというではないか。八重歯が可愛くて少し出っ歯、でも真っ白い。
私は真っ白い派に弱いのでかなりたじろいだ。
しかしラーメン王国、荻窪で丸福、春木屋、丸信、漢珍亭を食べて育った私、ラーメンにはかなり、相当、驚く程うるさいのだ。
「男の週末」なんて本は知らない。
ラーメン食べ歩きなんてやっているとデブデブになってしまうよと言ったらゼーンゼンだって。
年の頃は30〜35歳位である。で、ワカメは何でラーメンに入ってもいいのかを言い始めた。
この店は海の側であってラーメンの存在そのものが風景の一部だ、なんて訳の分からない事を言う。
ラーメンという一つの湾スープ、あるいはおつゆとう海その中にざわめく潮騒、これが都会のお店だったら私は許さないかもしれないが今現在この海風を浴びているこの店にとってのこのワカメのヌルヌルした青黒い光が存在する事に対し、ひとつの絶対必要存在論としてトングでワカメを掴んで投入する事が許されるのです。
何だい一体あんたは、イカレポンチでないかい、と思ったのだ。
ラーメン屋の名は「康家」というトラック野郎達や若いサーファーに人気で休日はいつもかなりの人が並んでいる。
こんな阿呆なやりとりに店のスタッフも他の客もビックリしまくる。
ラーメンはご当地の風景の一部というのが持論の様で味というのは絶対化してはいけないもんだと。
ハマグリが入っていようとサザエが入っていようと言い訳っていうとゼーンゼンOK、いいんじゃない。
ラーメンの上にイカの丸焼きはと聞くとゼーンゼンOK、美味しそうだって。
まあ何だか分からないけどかなり手強い出っ歯であった。
多分頭は相当イカレポンチで間違いないと思う。
ネェーンここワンカットシュートして(写真に撮っての意味)なんて言って若い女性のカメラマンに指示した。
ラーメン食べていた私と私の連れは口をあんぐりしたのです。
店の主人にワカメ抜きにしてオーダーした私のラーメンは一人の女性の参入で行き場を失っていたのです。
ぐいぐい食べてスープを飲み干した後、ネェーンこの辺放射能来るのかしらんとか言って白いマスクをしてそんじゃと出て行った。オー、俺も負けるなイカレポンチにはと言った。ワカメを入れてと言ったのは何故であったか。
ついでに半ライスも。