話の主役はずばり便秘である。61歳女性、古い友人である。
出るものが出ないのは問題である。給与が出ない、ボーナスが出ない(深刻である)、パチンコの玉が出ない、頼んだカツ丼が待てど暮らせど出ない、人の家の駐車場に図々しく入れてある車が出ない、ふざけんなである。これら出ないは、10日以上も出ないウンコ又はウンチ、又はクソに比べれば深刻度も、苦痛度も、恥ずかし度も違う。食べた物は出る様になっている体の仕組みである。
そうでないと人間フォアグラになってしまう。
牛乳も飲んだ、下剤も飲んだ、アロエも飲んだ。水は一日4リットル以上飲んだ、食べるのを止めた、歩いてみた、縄跳びもした、ウォシュレットでピンポイント攻撃もした。しかし、体の中で炭素化し、備長炭となってしまったモノは、全ての努力、攻撃を受け付けなかった。
10日を過ぎるといよいよ下腹部はパンパンになった。脳の血管がブチ切れる程踏ん張った。ダメだ、どっとトイレに崩れ落ちた。どうしよう、よし、感触は絶望を生んだ。そして絶望は一つの結論を生んだ。待合室には10人位いた。診察券を入り口に出す。保険証、今日はお持ちですか。ハイ、と出す。看護師さん3人、事務方2人のクリニックであった。自宅の側なので、私も時々ご厄介になっていた。
今日はどうされました?一瞬言葉が出ない。何病みたいなのか判らない。待合室には若い男性もいる。先生は46歳、唐沢寿明似の美男子である。やっぱりよそうと、体の重心が後ろに下がる。でも、下腹はパンパンでシクシク痛い。ちょっとお腹の調子が悪いので。そうですか。そうして待つ事1時間10分、名前を呼ばれる。その時間の長さは人生分に匹敵したと言う。
先生はいい人でした、優しい人でした、掘削人でした。診察台に新聞紙が大量に敷かれた。先生は工事を始めてくれたそうです。備長炭は全て掻き出されました。オメデトウゴザイマス、ヨーオ、お手を拝借です。
信じられない量でした、と先生がおっしゃったとか。人間は出ない出ないと思っていると、本当に出なくなり、便は炭化状態になるそうです。もっと酷いと開腹手術するケースもあるそうです。友人は、生涯これ程スッキリした事はない気持ちだったと言います。あまりの嬉しさに、クリニックからそのまま私の家に来ました。話は盛り上がりました。爆笑、快笑、大笑です。目から大粒の涙がバラバラと落ちていました。次の日花屋さんで花を買い、朝一番で御礼に行ったそうです。かなり臭っていた気がすると言っていました。
それから一ヶ月後位経ったある日の夜、友人は娘夫婦とイタリア料理を食べに行ったそうです。空いていた席は一つ、そこに案内されました。あっ、先生。先生夫婦が先に来て食事をしていました。穴があったら入りたい、恥ずかしい。何も知らない娘さん達はもう座ってしまいました。仕方なく、先日はどうもと蚊の鳴く様な声で挨拶をし、席に着きました。何をオーダーして何を食べたか記憶にないと言います。
ここ数日便秘気味なの、泣く様な声で喋りながら、天津甘栗を食べていました。
さて、どうなるか。
1 件のコメント:
炭になる前に出さなきゃだめですね~。腸の長さが変わると便意に繋がりますので、お腹のマッサージも良いですよ。仕事柄つい。。笑
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