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2014年3月19日水曜日

「出船入船」




「親しき仲にも礼儀あり」という。
世の中でいちばん親しき仲はといえば、親と子といえるだろう。

先日とてもいいシーンに出会った。
私が親しくしている水天宮の歯医者さんは、ダメージジーンズに革ジャン、ネックレスにブレスレット、両手に指輪、両腕に数珠数本。どう見てもドクターには見えない。
パンクロックの歌手の様であり、暴走族の様でもある。

若くて腕がいいので人気がある。スタッフは美人揃い。
父君は高名な精神科の医師でもある。
先年渋谷の文化村で展覧会を行った時、ご夫婦で来て頂いた。

その日、私は水天宮のドクターの処に行った。
アレッ先生どうしたのその格好と聞いた。何故ならドクターは、身に付けていた金銀のジャラジャラや水晶玉のブレスレットや指輪などを身に付けておらず、チャコールグレーのスーツに白いワイシャツ、シックなネクタイをキチンと締めていた。

どうしたのと受付付近で追加質問すると、実は新しいクリニックを開設するにあたり両親に相談に行ったところ、例え親子でも大事な相談に来る時は「ちゃんとした格好でいらっしゃい」と叱られたと苦笑いした。

ほおー近頃いい話だねと私は言った。
礼儀が出来ない人間がなんと多くなった事かと常日頃思っていた。
親子の関係もすっかりお友達みたいになり、ケジメが無くなってきた。

何だかやけに新しい出来事に出会ったなと思っていたら、誠に品のいいご婦人が入って来た。七十歳位だろうか、ドクターが母親ですと紹介してくれた。
文化村で会っていたのだがその時はティールームに座っていたのでしっかり記憶をしておらず、大変失礼しましたとお詫びした。息子がお世話になっておりますとおっしゃった。

登録患者数1万人以上、スタッフを10人近く起用しているドクターもお母さんの前ではかわいい子どもであった。ワタシクリーニングして頂くわと言って診察室に向かった。
その後姿には気品と知性が溢れていた。

ドクターは、日頃僕は究極のブランド志向で、自分もブランドになりたいと言っている。母君の佇まいとの余りの違いに親子とは似て非なるものという言葉を思い出した。

ドクターは虎ノ門に建設中の高層タワービルの中に近々新しいクリニックをオープンする。私は一枚のポスターをデザインして御祝いにしたいと思っている。

水天宮近くトルナーレデンタルクリニック、龍信之助という名がドクターの本名だ。
先生は腕がいいんだからブランド名は後から付いて来るからねと常日頃言っている。
この世は「ネタミ」社会。有名税というのは高く付く。
私は場末の芸者で終わるのが理想だ。

四月二十六日、会社は赤坂の明るいオフィスに引っ越すのだが私は銀座の芸者、今までのオフィスの片隅に兄弟分と共に一人残る事にした。
若者たちにはどんどん有名ブランドになってほしいと願っている。
それには何より「気持ちいいあいさつ」が最大必要条件だ。

出船入船朝の一発という。
港を出て行く漁船は行って来るぞと大きな一発を鳴らす。
帰港して来た時は、帰って来たぞと一発を鳴らすのが決まりだ。
オハヨーとオツカレさんが大切なのだ。残念ながら我が家では行ってらっしゃいも、お帰りなさいも無い。すーっと出て、ピンポンと帰るのだが、アラッ鳴らしたのとか、アラ早いのねとかが多い。
テレビのホームドラマじゃないんだから、いい歳していちいち行ってらっしゃいも、お帰りなさいも言わなくたっていいじゃないが、愚妻の主義主張なのだ。

バカヤロー、親しき仲にも礼儀ありだと言った処で後姿しかない。
矢吹健の歌に「後姿は他人でも」というフレーズがあったが、夫婦は元々赤の他人だからな。みなさん良き三連休を。ご先祖様への礼儀も忘れずに、お彼岸ですから。

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