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2016年11月15日火曜日

「イクラはいくらも」




五角形の入れ物の中に、カニ、イクラ、シャケが入っている駅弁がある。
北海鮮弁当というような名がついていた。一個1180円である。
その弁当を私の前に座った老人ご夫婦が二人で食べていた。

写真と比べるとずい分イクラは少ないし、カニは細い。
シャケはどこにあるのかしら、ホラここだよここ、あら、ずい分と薄っぺらいのね、たった三切れしかない。仕方ないよ駅弁だから、でも駅弁の中では高いのを買ったのに。
そうだな大失敗だったな。イクラなんか数が勘定できるほどしか入ってないね。
あらお箸割るのを失敗してしまった。先っぽが二つに割れなかった。
これを使いなさい。いいわよこれで。

小津安二郎の名作「東京物語」の笠智衆さんと東山千栄子さん夫婦のようなほほえましい光景があった。東京駅で売っている駅弁はかなり偽装的である。
私の前にいたご夫婦は久々に見る品のいいご夫婦であった。
あらイクラが飛んでしまったわ、私の足もとに小さな赤い粒が飛んで来て落ちた。
イクラはいくらも入っていなかったから貴重な一粒であったはずだ。

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