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2016年12月21日水曜日

「長い電話、第九と大工」




私の長い付き合いの人間、熱血漢、正義感の塊、熱心、陽気、マラソンマン、ボランティア人間。何しろ一生懸命の男が、砂漠に家を建てるが如く一つの仕事に向かっていた。
上司や同僚たちは何をやってんだ、いくらやったって形にはならない、つまり仕事にならない、売上にならない、認められない、出世できないという図式で見られていた。

それでも男はメゲズ、クジケズ、アキラメズに新しい仕事の開発に励んだ。
流通に携わる人間に土・日・旗日はない、稼ぎ時だからだ。
私も四年近く流通業に身を置いた。当然、土・日・旗日はなかった。
当時は水曜定休だった。たまに休めても友人たちは会社に行っていない。
カレンダーの土・日・旗日はすべて☓☓☓となる。

私の長い付き合いの人間は、土・日・旗日を返上し、家庭を犠牲にし、親子の関係は壊れていった。何しろいつも家にいない。
一生懸命の男がやっと大きなルートを開発できるところまでこぎつけた時、上司に呼ばれお前はこの仕事から外れろあとは俺がやると言われた。
こんな話はそこいら中にある。殆どはチキショウといって泣き寝入りする。
オボエテロヨとヤケ酒を飲みまくる。

が、私の長い付き合いの人間は違った。
男を五十年やって来てはじめて人を殴るという“快挙”をやった。
一発、二発、上司の目の上は切れ、鼻血が出て口びるからも出血した。
バカヤローと言ってバーンと辞表を出した、という長い電話があった。

実はこのことが世に出てしまったり、ネット上に出たりしたら流通大手にとってダメージは大きい。で、上司の上司、その上司の上司、その上と続いて慰留をされた。
思いとどまってくれ、あいつは遠くへ島流しにするからと。

流通業の外商といえば刑事と同じ、靴の底がすぐに減るほど歩いて回る。
中には女社長に気に入られてショッピングやゴルフにも同行する。
私の長い付き合いの人間は偉い人からの慰留に屈せず十二月末日付けで退社する。
ヤッホーじゃないかと言った。

の大好きな男はやっぱり次も流通業に行くらしい。お客さんが大好きなんだ。
新年早々一献を約束して長い長い長い電話を切った(話は半分位なのかもしれない)。
昨夜午後23時頃から24時半頃まで、途中で一度トイレに行かせてもらった。
次の日午前七時に起きなきゃ駄目なんだと知りつつ話し込んでしまった。

サントリーホールで読響の「第九」を観て聞いて帰っていたのだがすっかり感動は忘れちまった。サントリーホールを建てたのは誰だ、それは“大工だ”レベルまで思考力は低下してしまった。

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