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2017年7月26日水曜日

「小津安二郎的」

昨日家に早く帰る必要があり新橋発平塚行に乗車した。
午後五時二十分を二分遅れで入線して来た。列車はすでに満員状態であった。
ムシ暑くベタベタする日だった。

ほほえましい光景を見た。

八十代と思われる老夫婦が私と同時にグリーン車に乗った。
空いている席は前から二列目の二つだけであった。
買い物をした私は大きな袋を持っていた。
暑い中銀座二丁目から新橋まで歩いたので汗びしょであった。

君が座りなさい。いいえ貴方が座りなさいよと、老夫婦は1つの席をゆずり合った。
小津安二郎の映画のシーンのようであった。

私は窓側の一つに座っていた。列車が遅れたので混む。
特別にグリーン車代を980円払っているので席をどうぞと言う人はいない。
私もその一人であった。
ご主人と思われる品のいい人はパナマ帽をかぶり杖を持っていた。
濃い青色のツーピースのご夫人は、私はいいわよと言いながらも座った。

私の心の中はどこか窮屈になっていた。

席を立ってゆずるべきだったかと、列車が品川駅に着き停車した時、杖を持ったご主人の体がガックンと動いて座席の背の部分をつかんだ。
大丈夫とご主人は言った。
隣りの二人掛けにはバタバタと新聞をめくる四十代の男と、二十代の終り近い女性がスマホをしきりに使っていた。
車内放送では、宇都宮駅で安全確認をしていたので二分遅れたことを何度も謝っていた。
私は立っているご主人が気になって仕方なかった。
列車が動き出した時、あなたパンフレットを見せてと言った。
カーキ色の半袖シャツにエビ茶の蝶ネクタイのご主人はショルダーバックから七月大歌舞伎と書かれたものを渡した。きっと歌舞伎を観に行って来たのだ。
表紙に白い髪も鮮やかな市川海老蔵の獅子がいた。
私が持っていた夕刊紙にでっかい文字で海老蔵に再婚話という大見出しがあった。

まい日夏休みとなり孫の世話をしている愚妻を歌舞伎に連れて行ってやろうと思った。
海老蔵のファンである。

スマホをいじっていた女性が気がつくとキリン氷結ロング缶を飲み始めていた。
いい舞台だったねとご主人は上から言い、そう、とても良かったと下からご夫人は言った。

本当に小津安二郎的になっていた。
こんなシーンは大好きなのであった。

スマホの女性は画面を見てクスクス笑っていた。

信号が停止信号を出しましたのでしばらくお待ち下さいと車内放送が始まった。


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