「ライオン」という文字を見れば、100人が100人「百獣の王」を連想するだろう。私もレンタルビデオのタイトルを見てそう思った。準新作7泊8日とシールが貼ってある。
文字がよく見えないからメガネを出してよく見てニコール・キッドマンが出ているオーストラリア映画、これは真実の物語というのを知った。130分。他に8本借りた。
二日深夜にその「ライオン」を見た。結論を言う。100点満点で100点の映画であった。本当に泣けた。兄弟、姉妹は他人の始まりという世の中でこんな兄弟、妹がいた。インドの中でも極貧の村に住む、三人の兄弟、長男、次男と妹、父はいない。
母は石を運んで少しばかり賃金を得ている。
兄と弟は石炭を運ぶ列車に乗って、石炭を盗む。布袋に入れてそれを売り、小さなビニール袋に入った牛乳二つと交換して、母のところに持ち帰る。兄はいつも五才の弟を抱きかかえかわいがる。
弟は、兄ちゃん、兄ちゃんと兄に付き従う。盗む、追われる、逃げる、逃げる。この子役が実にいい。懸命に走る姿がいいのだ。ある日駅のホームで兄は弟のために何か食べる物を求めて、ここで待っていな、すぐ戻るからと言って駅を離れる。弟はベンチに横になり、疲れて寝てしまう。
気がつくと兄はいない。兄ちゃん、兄ちゃんと探す。
停まっていた列車の中に乗り、兄ちゃんと叫んで探す。その列車は回送列車であった。空腹の少年は食べ残りのリンゴを見つけてそれを食べる。そして列車は1600キロも離れた駅に着く。物語はこうして始まり、その少年はやがて施設に送られる。その後オーストラリアに住む、金持ちの夫婦にもらわれて行くのを描く。
少年は養子として25年間育てられる。真実の物語だから最後にすべての真実を見せる。本物の夫婦、本物の少年時代と25年経った今、当時の新聞記事やテレビのニュース映像。2018年現在は34、5才になっている。青年となった少年は兄ちゃん、母ちゃんを思い出す。そしてまい日パソコンに向かいグーグルマップで、兄ちゃんと走り回った山道を探す。兄ちゃんと離れた駅の給水機を思い出して探す。石を拾っている、母ちゃんのいた山を探す。インドは広い、インドは深い、インドのほとんどは貧しい。そしてある日遂にグーグルマップで給水機を見つける。山道を見つける。少年の名がインド名で「ライオン」の意味であることを最後に知る。
涙がボロボロと流れた。土曜日息子が来たので一緒にもう一度見た。
映画好きの息子がすばらしい、自分の息子に見せると言った。感動を忘れた人に、ぜひおススメだ。兄が呼ぶ、少年の名は(?)これが劇的である。キャスティング、シナリオ、撮影、文句なし、特に編集はパーフェクトであった。ニコール・キッドマンが実に抑えられた演技で養子を夫と共に育てる役を演じていた。芥川龍之介の小説(10ページ位)に、「蜜柑」というのがある。
小説家本人とおぼしき男がある日列車に乗っていると、一人の少女が隣の席に座る。小説では小娘。少女の手には網の中に入ったいくつかの蜜柑が入っていた。
男はいぶかしく思った。列車が動き出し、しばらくすると少女が列車の窓を開けた。少女は蜜柑を手にして窓から外へ投げた。畑のようなところに三人の弟たちがいて手を振っていた。
少女はきっと弟たちのために働きに出るのだろう。私は蜜柑を見るとこの小説を思い出す。人間は貧しい方が純粋でいられる。そう思いながら蜜柑を手にした。
(記憶が定かではない)
兄弟、姉妹、みんな同じ母親が生んでくれたのだ。
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