ページ

2018年2月6日火曜日

「間違ってない人生とは」

奴雁(どがん)この言葉を知ったのは年が明けてからである。
小さな庭にスーパーで売れ残ったリンゴを置いてあげる。冬になると冬の鳥たちが来て、朝早くからリンゴを突っつきまくる。鳥たちはすこぶる用心深く、疑い深く首をキョロキョロと動かす。雁の群れが餌をついばむ時に、仲間が外敵に襲われないように、首を高くして周囲を警戒する。
この姿を奴雁というらしい。冬に来た鳥たちがこの頃一羽だけになってしまった。
毎朝一羽ずつ交代にリンゴを突っついていたのに。一羽の鳥はとても孤独感がある。こんな詩があった。「孤独の鳥の五つの条件」一つ、孤独な鳥は高く飛ぶ。二つ、孤独な鳥は、仲間を求めない。
三つ、孤独な鳥は、嘴(くちばし)を天空に向ける。四つ、孤独な鳥は、決まった色を持たない。
五つ、孤独な鳥は、しずかに歌う。♪~夜が又来る 思い出連れて 俺を泣かせに 足音もなく 何をいまさら つらくはないが 旅の灯りが 遠く遠くうるむよ。
小林旭の「さすらい」口ずさみながら孤独な自分を味わう。
どんなに人にまみれて生きていても、人間は等しく孤独である。
ある大学の精神科医の診察室を訪れる若者は、こんなことを言う。「つらいんです」どういう風にですか(?)と聞いても、「つらいってことです」そして「この感じがとれる薬をください」と。医師は言う、大学生たちと接していると「『私』をどこかに預けている感じがする」、「自分の弱さと向き合うのはとても苦しいことだから、でしょう」これは大学生だけの話ではない。昨日深夜、廣木隆一監督(原作)の「彼女の人生は間違いじゃない」という映画を見た。その後重なり合った新聞を整理しながら、奴雁のこと、孤独の鳥や、ある精神科医の話をつまみ読みした。映画は廣木隆一の世界がヒシヒシと伝わる。
福島県いわき市、原発事故で無人化した町の外。仮設住宅で父と暮らす娘は、生きている存在を失っている。こころの孤独をいやすためなのだろうか、夜行バスに乗って東京へ行く。
目的はデリヘル嬢になるためだ。金が目当てではない。
性的快感でもない。3、11で母を失い、生活を失った虚脱感が全裸の姿に現れる、恋人はいたがすでにいやされない。デリヘル嬢をしている時、よろこぶ男を見て自分の存在価値が、自分の体で分かるのだろう。廣木隆一はこの手の映画を作らせると天下一品である。
かつて「ヴァイブレーター」という名作を生んでいる。
長距離トラックの運転手の孤独と快楽。確かNO.1であった。
小さな庭に置いたリンゴは未だ半分残っていた。
一羽でなく、二羽、三羽と来るのを私は待っている。
小さな池の12匹の赤い金魚はじっとして動かない。
金魚たちも鳥が来るのを待っている。赤い寒椿が見事に咲いた。
植物たちはしたたかに生きていく。地球が隕石で滅びても、わずかな植物は生き残るらしい。


0 件のコメント: