バーバリーのコート、黒のスラックス、短髪に黒縁のメガネ、手には岩波文庫。東京発→熱海行に同席した27・28才の女性は、絵に描いたような文学少女風で今どき珍しいと思った。みんなスマホばかりだからだ。列車が新橋、品川、川崎となった時、文学少女が抱きかかえたトートバッグの中から、 まず黒々とした大きなおにぎりを出した。次におーいお茶のペットボトルを出した。読んでいた本はバックの中にしまっていた。ここまではとても文学少女的(?)であったのだが、次に出したのはガビーンと魚肉ソーセージであった。これが結構臭いがキツイ。魚肉ソーセージのアタマの部分は金具でしっかり止まっている。女性はそれを歯でかじり切った。そして包んであるビニール部分も歯でツーと下まで取り除いた。プーンと臭って、魚肉ソーセージのピンク色の肉体があらわに現れた。ガブッというよりも、チョボチョボと食べて、おにぎりも食べた。おーいお茶を飲んだ。ずっと下を向いたままだった。横顔が岸本加世子にそっくりだった。その食事は藤沢駅まで続いた。午後8時過ぎ、車内放送で、線路の安全点検をしますので、しばらくお待ちください、誠に申し訳ありません、と何度も何度も言った。結局25分程度列車は停止した。魚肉ソーセージは臭気を出しながら、女性の紙袋の中に、完食のあとかたが消えた。少年の頃、魚肉ソーセージは最高のゴチソウだった。丸く切って油で炒めると、少しばかりそり返る。ご飯にバターをのせ、そり返ったソーセージを加えて醤油をかけると、もう絶品であった。大洋漁業のマルハの ソーセージが一等賞だった。
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