「悪報には羽根が生えている」とギャングの言葉。「成功のためには孤独は必要だ」と画家の言葉「人生に疲れた者は、死を恐れない」とマフィアの言葉。「私の壁画は、私の性的な妄想でしかない」と建築家の言葉。など気に入った映画の中のセリフを揺れる東海道線の中で、メモっていたら、川崎から気に入らない二人の男が乗車してきた。東京駅を21時42分に出発した列車だ。グリーン車のほぼ真ん中、私の右斜め前の席、一人の男は手にサントリーのハイボールのロング缶、32・3歳、かなり太っていて、かなり髪が薄い。もう一人はきっと入社1年目くらいの23・4歳のヒョロヒョロっとした男、手にはキリン氷結ロング缶。そして手には恐怖の柿ピー。恐怖のポテチー。 さらに大恐怖のサキイカ。川崎から乗車すると同時に缶をパッカンと空け、三種の袋をガサゴソとおっぴろげた。強烈な臭いが一気に広がった。太った男が一方的にしゃべる、ヒョロ男はすでに出来上がっている。でかい声で営業ってのはなぁ、8割はうまくいかないんだよ、今日のケースはさ別に特別じゃないんだ、あの相手の奴等もなぁ、俺たちと同じ営業だから必死なんだよ、後から出てきた、あのクソジジイ、部長だか課長だかわかんないけどさ、名刺も出さねえで、人の話を切りやがって、ふざけんなだよ、でもなあ・・・。と何しろ声がでかい。私の両耳はかなり耳鳴りが激しいのだが、それを忘れるほどでかい声、そして恐怖の臭いが、プンプン、プーンと混ざり合って臭う。ヒョロ男はコックン、コックンしながら、柿の種ボリボリ、ピーナツをガリガリ、イカサキを3・4本まとめて歯で引きちぎりながら食べている。当然ポテトチップスもパリパリだ。太った男は薄い頭と広い顔半分しか見えない。でっかい声ばかり、ヒョロ男は聞いているようで、太った男の話は聞いていない。ウルセイヤローだなと思い、なんだこの異臭はと感じて、クラクラしてきた。せっかくアカデミックな言葉をメモ、メモしていたのに、全神経がでっかい声と、臭いの猛攻撃に向かっていた。あまりの声に周囲の乗客も明らかに、ウルセイというザワザワ感を感じた。営業はヨオ、今日みたいなことの繰り返し、君さあ、今は転職の時代だからさ、嫌なら会社変わればいいんだよ。でもさあ、ガンバレよ、なあ、と言いながらロング缶を飲み干した。列車は大船に着いた。オイ降りるぞ、降りるぞと、二人は立ち上がった。食べ残した袋を座席前の網のポケットに押し込んで、ガヤガヤと出て行った。結局ヒョロ男の声は1回も聞こえなかった。久々の恐怖の列車であった。アレッと右隣の席を窓側に座っていた OL 風の女性がコリコリ、コリコリとジャガリコを食べ始めた。きっと前があんまりうるさいので食べる気がしなかったのだろう。コリコリもかなり臭いがキツイが、あとふた駅だと思った。昨夜ある会社のオーナー、ある会社の社長、ある写真家と四人で、ワンタンをシェアして、焼きそば、エビチリ、カニ玉をシェアした味を思い出した。ワンタンという、ふわふわしたつかみどころのないやつを、レンゲに入れると、ヌルヌルっと逃げ落ちてしまう。なかなか意地悪なのがワンタンという存在なのだ。お店の人が四人分に分けてくれた。小さな入れ物の中にちゃんとメンマとチャーシューも入っていた。藤沢駅を通過した頃、頭の中でチャーシューワンタンメンにしようと決めた。店は荻窪の「春木屋」だ。近々阿佐ヶ谷に劇を見に行く。その後の楽しみだ。
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