藤原正彦先生は云う。
アメリカ人はジョギング好き、老若男女が至る所を走る。
健康の為なら何でもする。牛乳は低脂肪か無脂肪、チキンの皮や牛肉の白身は残し、ガムやコーラはシュガーレス、ランチはサラダバーへ、エアロビクスに腰振りダンス、ヨガや東洋的瞑想でストレスを解消しようとする。健康の為に一生懸命すれば永遠に生きられる。死んでしまうのは本人の過ちと考えられているのではという。
これだけしても肥満ばかり平均寿命は日本に比べて4.4歳も短い。アメリカ人は毎日アイスクリームを食べるという。30㎝位あるチョコパフェを食べる。世界一アイスクリームを食べる国民なのだ。逆にイギリス人は健康に注意を払わない。ジョギングなどはアメリカ人のものと見下しているのだ。
多くの人はせいぜい庭いじりで汗をかいたり、週末にロングウォークといって10㎞位の散歩をするだけ。食生活もいい加減で生野菜などは殆ど食べない。大学教授の家でも夕食はパンとスープだけ。イギリス人にはアメリカ人と違い、どうせいつかは死ぬんだという諦念があるのだ。それでもアメリカ人より平均寿命は1歳ほど長いのだ。
日本人もアメリカ人に近い、健康の為なら死んでもいいなんて思っている人もいる。
この頃ポカリスエットとかアクエリアスといったスポーツドリンクが売れなくなっている。糖分が入っているからだ。甘そうと思った品は買わない、糖質ゼロブームなのだ。とにかくゼロと表示しないと売れなくなって来たようだ。
四月十三日、東京駅発19時36分の湘南ライナーに乗った。
発車ギリギリ腹の調子がイマイチなのでお腹の中はヘリヘリだった。前から四列目だけ二人分空いていた。窓際に座り夕刊を読む体勢が出来た時ドンという音と共にとんでもないデブの中年女性が乗って来た。
悪い予感は必ず的中する。手に缶ビール500mlとポカリスエット。大きなシュークリーム、モナカアイスの大判、袋物は海老せんとポテトチップスだ。飲んで食う、でっかいくしゃみする、飲んで食う、でっかいくしゃみの繰り返し、ゴクッゴクッ、バリボリ、バクバク、ナメナメ、そしてでっかいくしゃみ。ティッシュ出して思い切り鼻をかむ。全身無神経の固まりの様だ。夕刊を読んでいても文字がよく読めない。見た目と違って割と繊細な私としては横浜辺りで限界に達し始めていたが湘南ライナーは大船まで停まらない。ゴボッなんてでっかいゲップ、ビールの臭いがどっと来る。
こういうオバサンと一緒に暮らしているダンナがいるとしたらどんな人だろうと想像した。色々イメージしたがきっと温水洋一さんみたいな人ではなかろうかという結論を出した。
温水さんゴメンナサイです。
大船に着いた頃オバサンは膝の上に未だ半分位残ったかっぱえびせんの袋を乗せてゴーゴーとでかい鼾をかきだした。ウルセイのなんの上を向いて大きな口を空けてる所に夕刊を丸めてくわえさせてやろうかと思ったがあと二駅の我慢だと思い堪え切った。
藤沢そして辻堂着。オバサンちょっとどいて、降りるからと言うとキョトンとした目で大船ですかって言うから、大船はもう通り過ぎてここは辻堂、チョット早くどいて下さいよ、早くどけよと言い合っている内に列車が動き出してしまった。何たる事だ結局次の茅ヶ崎までご一緒となった。辻堂でも茅ヶ崎でもそう家まで大差がないが何しろオバサンから逃れたかった。
オバサンは荷物や空き缶や袋物をビニール袋に入れながらブツクサ言って茅ヶ崎で降りた。早足で歩きながら振り返ると丸太の様な体をユサユサさせながらホームを歩いていた。な、なんと又、モナカアイスを食べながらだった。温水洋一さん、奥さんの帰り時間が少し遅れますよと心の中で思った。どんな家庭か興味はある。