「カンヌキ」というと大具道具の様ですが築地の市場では特上のサヨリの事をいう。
カンヌキは漢字で書くと閂、観音開きの扉の錠で横に渡す棒の事、体長30㎝を超えるサヨリが一見このカンヌキに似ているからだという。
春を告げる魚、群れをなし海面を優雅に泳ぐ、築地の食通は薄づくりにしてから昆布締め。潮汁のお椀も上品でいい、体がピンとして銀色が鮮やかでくちばしが赤いものほど新鮮だという。
と、ここまではサヨリのいいところばかりの話だが私の様な岡山出身者にとってサヨリは忌まわしい魚なのです。ある高名な民俗学者が人国記を書き残した、そこに岡山県人は魚でいうとサヨリの如くであると書いてある。見た目はキラキラして美しいが中を開けると腹の中は真っ黒いという。
正体を中々出さずという。以来寿司屋に行ってもサヨリはあまりというより殆ど頼まない。確かに腹の中が黒い。そういえば私自身も腹の中は真っ黒いのかもしれない。それでもいろんな困難に対して閂(カンヌキ)の役目はして来た様に思う。
福沢諭吉の「学問のすすめ」の中にこんな一節がある。「人にして人を毛嫌いする事なかれ」つまり人間なのに人間を毛嫌いしてはいかんよ、という事だという。
世界の土地は広く色んな人がいる。碁でも将棋でも食事でも茶でも腕相撲でも何でもいい人と人の交際を大事にしなさいと教えている。明治以降のエリートたちは「学問のすすめ」を勉強のすすめと曲解し争って学歴の取得に走った。それが極端な官僚社会、学歴社会を創ってしまったのだろう。
築地市場といえば残念な事があった。
私の大好きな「合がけ」の店「大森」が創業から87年の店を閉じた。一杯700円、大盛り830円B級でなくZ級ですよと主人は言う。カレーも食べたいけど牛丼も食べたい。
そういう重大な悩みを持った人にそれなら半分づつにして一つにしてしまおうという柔軟な発想から合がけは生まれた。
カウンター5席だけ、午前二時半に起きて仕込みを始めるという。
築地は早朝から午後二時位までが営業時間だ。小さな店、ユニークな店が沢山ある。徹夜した時等必ず朝方行ってとれたての魚を食べながら一杯飲む。これ程旨い酒はない。
コハダ、鯖、鰺、鰯、光り物が大好きだ。ホタルイカ、鮪の中落ちなんかは泣けてくる程旨い。この頃、魚の仕入れも電話やネット、ファックスが中心になり仕入れ人がめっきり減ってしまった。
その変わりに外国人観光客が増えた。中国語、フランス語、ポーランド語等で「ようこそ」という言葉を覚えたと言う。福井県の農家の三男だった祖父が上京して上野で開店、関東大震災に遭った。日本橋にあった魚市場が壊れて築地に来た、築地は日本の伝統文化の地、あらゆる知恵を出し合って残して貰いたいと思う。
今夜のメニューはカレー+すき焼きで合がけ丼を作ってもらう。
サヨナラ大森さん。ご夫婦お元気で。
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