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2010年4月1日木曜日

人間市場 一番市


何でも一番が命みたいに思っている変わった人がいる。

高速道路がオープンというと数日前から並んで一番を。閉店セールがあるというと二日三晩並んで一番を。近所で火事が起きた全てを捨てても駆けつけ一番へ(本人が火をつけた場合も多い)。地震があり決して浜辺に近づかないで下さいと言っているのに一番に浜辺か防波堤に。台風で大雨なのにわざわざ歩き回る。

交通渋滞でニッチもサッチもいかないというニュースを見るとわざわざ車を出しその渋滞に向かう。次の日、あの日あの時あそこにいたんだよ、大変だったよと自画自賛する。周りはただの変わった人、物好きな人、野次馬の人、仲良くしたくない人となる。
ずぶ濡れになった自分を自分で写真を撮って悦に入る。

こういう一番シンドロームの人が勉強や仕事で一番になったというケースはまず一人もいない。ただ目立ちたい、ただ話の中心にいたいだけ。このうすら寒いのに花見に繰り出している人たちも同じ、花を愛でるという風流よりもあんな寒い風のある日に一番早くあの場所にいたという事実の方が重大ニュースなのだ。可哀相に子供はガタガタ震え、妻たちは鼻水をすすり、風でシートはめくり上がり、押さえていた四隅の足とか置物は飛んでしまう。
それでもマスコミが近づき凄いですね、こんな時にこんな所に一番早く来るなんてと取材されると、とりの唐揚げかなんか食べながら一番なんです、毎年一番なんですと誇らしげに語る。

悲しいとか切ないとか情けないとかを通過して気の毒としか言い様がない。これは 確かな病気なのだから。
正月に寺社で一番を目指して走る若者。裁判で一番最初の傍聴券を求めて並ぶオジサン(おおむねマスコミから金で雇われているのだが)。

この間吉祥寺にあった百貨店が閉店した、そこの人間が古い友人であった。閉店オープンという相矛盾したイベント。扇の向こうに血走った目の人、人、人。
よく見るとたいがいバーゲンセールの常連だったという。大学出て四十年近く頭を下げて来た百貨店マンにとってその人たちは憎しみの対象でしかない。

いざオープン、どっと人が入り込む悔しいから足をそっと出したら数人将棋倒しに倒れたらしい。ザマーミロと思い笑いが止まらなかったと言う。うっすら鼻血を出した人はいつもなら何時間も苦情を言うのにこの日は一切無し。ただひたすら一番を目指していた自分が自分でケッ躓いてしまったと思ったからだ。バカ丁寧に頭を下げるまで無感情な店員たちとの対比が何とも可笑しかった。

こういう種族は「野犬科」の人に多いと学者さんが言っていた。ご主人が撃った獲物を一番に捕って返って来てご主人に頭を撫でられご褒美をもらいお前は一番エライ奴だといわれる、もう嬉しくて仕方がない。
曲芸的自己顕示野次馬症(?)という一種の病らしい。放火を重ねるのはその典型らしい、自分で火をつけ自分で報告し自分が一番早くその現場にいる、それと同じらしい。地震大好き、津波大好き、大事故大好き、大事件大好き、大洪水大好き、お隣の喧嘩、ご近所のモメ事大好きなのです。
警察のプロファイルには一番にマークされています。自分では全く心外なのでしょうが当局にとっては何か事件があると一番にその名が出て来るのです。

ある中学の校長が校長室で30歳も年下の夫子供がいる女性を好き勝手していてその手で卒業証書を渡すかも等という全て持って打ち首者がいました。実は生徒も先生もPTAもみんな知っていたとか。誰が一番に密告するか順を競っていたのです。この学校を一番で卒業した生徒は生涯傷つく事でしょう。知っていないから知らない素振りのご主人はこれからどうやって生きて行くのでしょう。この世で一番程危うい存在はありません、何しろ重病人ですから。気をつけて下さい。

誰も来ないと言っていた茨城空港に一番乗りして自慢顔の人が居ました。
撮り鉄なんて集まっている人の顔を見ると我が家の側にあったチサンホテルのプールサイドでヌード撮影会に群がっていた人々の異様な顔と同じです。娘を連れて行った私はその時スケベジジイどけと言ったら主催者の三人がスミマセン気をつけます、何しろ今だけ少しご勘弁をと謝りました。気持ち悪い中年オジサンばかり四、五十人いましたチサンホテルは当然潰れました。

ちなみにその日一番先にいいポジションを得た人は二日前からホテル近辺の車の中に泊まり込んでいたのです。この世で一番に気をつけるのは一番危ない人です。

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