あいつは都鳥(みやこどり)だから気をつけろという言葉をご存知でしょうか。
都鳥とは何も京都や東京で飛んでいる鳥の事ではない。
清水次郎長の子分、森の石松が親分が人を斬った刀を四国の金毘羅様に収めに行く(二度と人を斬りません)石松代参として有名な話だ。
旅の途中次郎長ゆかりの草津追分の見受山鎌太郎に会う。
その地に都鳥吉兵衛兄弟という悪い野郎がいた。
吉兵衛は石松がまとまった金を持っている事を知り、石松からその金を借りる。人のいい石松はすぐに返してもらえると思っていたが吉兵衛は返さない。
しびれを切らした石松はあの金を返せと吉兵衛に迫る。
吉兵衛は金を返すからと石松を呼び出し、寄ってたかって石松を斬り殺してしまう。
と、まあ大筋はこんな話なのだがそれ以来渡世人の世界では、ずるい奴、嘘をつく奴、借りた金を返さない奴を指して、あのヤローは都鳥だからというようになった。
または悪い野郎は都鳥というようになった。
世の中都鳥ばかりとなってきた。
恩を仇で返す事が当たり前となって来た。
さて、都鳥吉兵衛はどうなったか。
当然親分清水次郎長は子分二十七人衆を引き連れ、石松の仇を討ちに行く。
二度と人を斬らないと誓った次郎長だが、子分の仇を討たねば渡世人とはいえない、都鳥吉兵衛兄弟は次郎長のライバル、甲州の黒駒勝蔵に助けを求めるが見捨てられる。
次郎長一家は都鳥一家を見事やっつけるのであった。
浪曲師広沢虎造が「呑みねえ呑みねえ、寿司を食いねえ寿司を、もっとこっちへ寄んねえ、江戸っ子だってね、神田の生まれよ、そうだってね〜」という船上のやりとりを名調子で語るのを、少年の頃銭湯のラジオでよく聞いていた。
冷えた名糖牛乳をグイッと飲みながら。
借りたものは返す、金で返せないなら終生かけて真心で返すしかない。
男がいちばん人に対していいにくい言葉は「あの貸した金返してくれ」なのだ。
悪い野郎都鳥たちは等しく、借りたものは貰ったものとシカトを決め込むのだ。
ホラッ、あそこにも、そこにも都鳥は飛んでいる。
学術名は悪党科シャッキンバックレトリという。人のいいヒトの側に近づく習性がある。このトリは掟では斬り殺していい事になっている。