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2013年6月20日木曜日

「AとBの関係」


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過去には夢にまで出て来たいい男と、現在は夢に出て来てはうなされる男。
その男は同じである、と女性(34)はいう。

一方、過去には夢の中で愛を信じ合ったいい女性と、現在夢の中で殺されそうになる怖い女性が同じであるという男(29)。

つまり私の目の前にいる二人の男女は、かつてときめきの仲であった。
が、ある事で二人の間は修繕不能の障子の破れた穴となってしまった。

その穴の原因はお互いの宗教観であった。
いい男はA教信者であり、いい女性はB教信者であった。
出会った二人はずっと互いの宗教を話さなかった。

知り合い、付き合い、抱き合い、重なり合いを続けた。
ある日女性は女性としての来るべきものが来ないのを知り、医師のところへ行った。
「おめでとうございます」といわれた。
ああ、うれしいと男に連絡をした。
えっ本当となり二人はいつもの様に会った。女性は当然結婚してくれると思った。

さて、そこから話は複雑の度を増し二人の間には渡るに渡れない宗教の海峡が現れた。
A教とB教は相入れない。近づけない。
二人の親ならびに親族一同は、一体何を考えているんだとなってしまった。

ある日、男は「君には悪魔の神が宿っている」といった。
女性は男に「あなたには邪悪な仏が潜んでいる」といった。
もはや二人だけの問題ではなかった。
神と仏がぶつかり合い、愛などの入る余地は一寸もない。
二人が放った言葉の風力で空いた障子の穴は虚空を写し出していた。
その空には青色は無く、一片の雲すらない。

生む、生まないの悲愴の会話は、一族の血脈の歴史の重さにより悲愴度を増していった。二人は悪夢を見続けた。夜は恐怖の闇色となった。夜と朝の間は地獄の行間となった。
異宗教同士の愛は万華鏡の中に入り、何が実体なのか分別不能となっていった。

昨晩一本の国際電話が入った。
二人は今オーストラリアの片田舎にいるという。
はじめに男が出て、次に女性が出た。二人の後ろに赤ちゃんが泣く大きな声が聞こえた。
詳しいいきさつはぜひお会いした時でといわれた。幸福そうであった。

何が何してどうなったかは分からない。
ただ二人には、ある日茅ヶ崎にある海の見えるカフェテラスで、愛とはすべからく現実からの逃亡だよ、神も仏もありゃしないよ、なんていったはずだ。
二人はきっと異教の重みを背に海を渡って行ったのだろう。
愛の結晶の宿る大きなお腹を庇いながら。 

619日夜、1025分から約15分、私は子機を持って上から下へ、下から上に動きつつ励ました。私と二人との関係は実に謎めいていた。外は梅雨と台風がコラボレーションしている。風と雨が主張し合っている。室内はベタベタ蒸し暑い、冷房をドライ+2にした。

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