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2013年6月5日水曜日

「勝つことこそ価値」



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梅雨が雨を降らせる事をすっかりサボっていた、生温かい赤坂一ツ木通り。
夜九時二十分、会社の人間と打ち合わせが終わって店の外を二人で歩いていると、アチコチの店から人が溢れ出ている。

一体何事かと思えばサッカーの中継を、人、人、人が一杯飲みながら声援を送っているのであった。テレビ画面では00であった。こんな光景をずっと昔に見た。
テレビが未だ家庭に普及していなかったので街頭テレビや電気屋さんの前で見たのだ。

見たスポーツはプロレスだ。
力道山がシャープ兄弟やルーテーズやプリモ・カルネラやデストロイヤーやブルーノ・サンマルチノやボボ・ブラジルと血みどろになって戦う姿に人々は熱狂した。
プロレスの人気は今のサッカー人気の100倍か1000倍以上だった。
無敵の柔道王木村政彦と力道山の死闘は日本人同士でもあり国家的イベントとなった。空前絶後、無敵の木村政彦は力道山に空手チョップを浴びせられ、蹴りまくられ半死状態となった。わずか15分位であったが歴史的シーンでありそれはテレビ時代の幕開けだった。

我が家にはテレビはなかったので、電気屋の嫌味な親父や意地悪なババアに取り入りながら大人たちと見た。また近所の絵描きさん家に行って20人位で見せてもらった(見物料の代わりに庭でとれた柿やイチジクなんかを持って)。

プロレスのスポンサーは三菱電機であった。
試合前リングの上を風神とか雷神とかいう掃除機で掃除した。

私の住んでいた荻窪駅の北口マーケット裏の街頭テレビは満員電車の10倍位でぎっしりであった。未だカラーテレビではなかった。力道山は、人間発電所とか動くアルプスとか覆面の魔王とか鉄人を相手に61分(何故か60分でない)を闘いぬいた。
日本の興行界で今なお力道山を超える興行師はいない。

赤坂一ツ木通りは立ち飲みブームである。次から次に店がオープンしては閉店する。
外国のパブで飲む男たちはやけに格好良いのだが、日本人がワイングラスかなんかを小指を立てて飲んでいる姿は笑っちゃうくらい全然似合っていない。

家に帰りニュースで引き分けて抱き合う選手たちを見て複雑な気がした。
勝負に勝ってこそ価値がある。日本のサッカーが未だそのレベルなのだろう。
PKでやっとこさ一点入れてヤッタ、ヤッタでは天下はとれないだろう。
予選の試合なのに歴史的一戦なんて叫んでいるうちはダメだ。

プロ野球ではアメリカで使いものになれない外人がボカスカ打ちまくり。
日本を代表して大リーグに行ってボロカスだったのが、オールスター人気投票第一位(途中だが)という現状に愕然とする。

かつては有能なスポーツライターが実に良い文章を書いていた。
時に槍の様に鋭く、時に母親の胸の中の様に優しく、時にパトロールカーの様に警告を発していた。今や一人も気の利いた書き手はいない。ちなみに私の一番好きなスポーツであるボクシングでは引き分けで喜ぶ選手は一人もいない。

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