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2012年9月24日月曜日

「お線香の煙」

おはぎ ※イメージ



「なんでこんなに人がいやがるんだ、こんな中の悪党一人位殺したからってどうって事はねえじゃないか」
い間刑務所に入っていた中年の男は人混みの中で呟く。
会っていなかった女を久し振りに抱く、じっくり口を吸ってからこういう。

「お前胃が悪いんじゃねえか、息が臭いぞ」

石原慎太郎作、篠田正浩監督の映画、「乾いた花」のセリフだ。
沢山映画を観たが最も好きなセリフだ。男は池部良、女は原知佐子であった。
小さな部屋で花札をする男と若い女。
女は男に聞く、「人を刺し殺したんだって」「ああ」「人を刺すってどんな気持ち」「どうってこたぁないが、なんか自分と繋がっている、生きているって思うんだ」若い女は加賀まりこ、これがデビュー作であった。

自分が生きてんだか、死んでんだか分からなくなった時、この映画を観る。
猛暑と残暑が体を痛めつけた。九月二十三日(日)強く鋭い雨がガラス戸を叩く。
父と母と親友と、二匹の犬の写真、赤と青の二匹の猫の置物の前におはぎを四つお皿の上に置き、お線香に火を付けて立てた。うっすらと細く白い煙が流れ雲のように部屋の中に動いた。

いつか死ぬ時どいつを殺してやろうかとふと思った。その時きっと自分と繋がる事ができる。
生きたまま死んで行ける、そう思った。

血の色をした金魚が雨をよろこんでいる。
善良な人間を演じるという事はむずかしい芝居だ。
何の思い出もない、法衣を着た父親の写真に語りかけた。
あなたはいつも本当の自分でしたかと。

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