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2013年4月15日月曜日

「ある家族」


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泣いている、誰かが確かに。
午前三時を少し回った頃、私の耳の中にその泣き声が下から聞こえた。
二階から下りて、じっと耳を澄ますとやはり
“ウィーン、ウーン、ウェーン”と泣いている。
何しろ小さな家の中、その泣き声は直ぐに判明した。
すっかり老人化した冷蔵庫のモーター音だったのだ。
なんだつまんネェ〜の、と椅子に座りいつものグラスに氷の大きいのを入れ、
スミノフを注ぎ、ゴクッと飲んだ。

オイ、冷蔵庫、随分長い間がんばってくれありがとうよ。
開けたり閉めたりをきっと何万回もしてきたからな。
人間の寿命と同じでついにその日が近づいた訳だ。
などと声をかけた。
と、その時冷蔵庫はブルル、ブルルと揺れ始めた。
オレの言葉が通じたのか
冷蔵庫はウィーン、ブルル、ウェーンブルルを繰り返す。
グラスを手にしながら近づいて前に立つと、時刻表やら、分別ゴミの収集日の事やら、4週間目にこんにちはダスキンの事やら、防災マップがマグネットによって貼られている。掲示板にもなってくれていたんだなと思わずナデナデしてやった。
するとウィーン、ブルルが心なしか静かになったではないか。

いろんなものを冷やす冷蔵庫にもきっと温かい血が流れているのだろう。
家電も家族なのだ。

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