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2013年11月5日火曜日

「それぞれの道」






たった一球のストライクで英雄になり、たった一球のフォアボールで戦犯になる。
たった一つの死球で試合は壊れ、たった一つの失策で一年間の努力は消え去る。
たった一球の先に栄光と敗北がある。
たった一つの勝利を求めてプロの男たちは人生を賭ける。
主役を演じる者、脇役に徹する者。

巨人対楽天の日本シリーズ第七戦、最終回のマウンドには前日160球を投げた田中将大投手が仁王立ちしていた。
一年間敗け知らずという奇跡的な投手はそのプライドを初めての敗戦投手という結果で傷つけられた。最終戦最終回、自ら志願したというが星野仙一監督は勝っていたなら胴上げ投手は田中将大でと思っていたのだろう。歓喜の演出と東北のファンへの感謝を込めて。

30で勝っていた楽天、この試合に勝てば日本一だ。
前人未到の男の球はさすがに疲れていた。ヒットを2本打たれる。
代打矢野謙次選手に一発のホームランが出れば同点となるのだが、巨人に代打の人材が不足していた事が証明される。
矢野選手は今シーズン一年間を通して2本の本塁打を打っただけの長打力しかない。
だが、もしかしては過去に何度も起きている。

だがやはり田中将大の投じた命の豪球は矢野選手を圧倒し三振させた。
ゲームセット、東北に歓喜の渦を巻き起こした。
私はこの試合を決めたのは四回一死澤村投手から打った牧田明久(31)選手のホームランであったと思う。

牧田選手はどのチームもいらないと、分配ドラフトされた選手であった。
00年秋ドラフト5位で近鉄に入団、最初の四シーズンは一軍出場なく、楽天創設時寄せ集めの選手の一員であった。
日本シリーズ第一号は巨人に深手を与え、それが止めとなった。このシリーズは脇役の差が出た。それと一球に対する執念と球際の強さの差だ。

牧田選手が打った後グランドを回る姿に、チキショウ主役たちに敗けてたまるかという男の意地を見た。

私は果たしてたった一球に命を賭けるプロの選手の様に全力で生きて来ただろうか。
プロとして努力を続けて来ただろうか、悔し涙をどんぶり何杯分も流してきただろうか。私にとって仕事を依頼してくれる会社並びに人々は主役であり監督でもある。
その期待に応えて来ただろうか。脇役としての力を発揮して来ただろうか。

牧田選手の四打席を見ていて胸が熱くなり、心を新たにした。
日本シリーズ七戦で楽天の総得点は21点、巨人は15点であった。
その6点差は間違いなく脇役の集中力と精神力の差だった。

脇役に栄光あれ、東北に復興あれ。この日サッカーの三浦知良選手が468ヶ月8日、最年長ゴールを決めた。唐獅子牡丹を演じた高倉健(82)が文化勲章の親授式に出席した。主役たちには主役たちの長い道が待っている。人間はそれぞれの道を極める素晴らしい生き物だ。

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