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2018年6月5日火曜日

「だるま亭の前には、コロッケパン」

仕事を頼みに来てくれていた三人の内、一人は12時30分東京駅発の最終バスでつくば市に帰ると言う。あと二人は地下鉄の終電に間に合うからお気づかいなくと先を急ぐ。5時間近く仕事を手伝ってくれていたアートディレクターは、一杯だけ飲んで帰るかと言えば、飲んだら明日までにやらねば間に合わないので帰りますと言った。私が乗る終電にはもう間に合わない。ガッサゴソになった、仕事場のテーブルの上をいい加減に整理してアートディレクターと、鍵を閉めてビルの外に出た。朝から何も食べてなかったのだが、ある時間を過ぎると空腹感はなくなっていた。それじゃあオツカレさん、今日は本当にアリガトウ、明日もよろしくなと言って、仕事場の前で別れた。いい歳してこんな事やっていたら死ぬぞとか、死にますよとか、死ぬわよと言われても、こうとしか生きようもない自分がいる。役者は舞台の上で死ぬなら本望だと言う。人間生きている内は、間違いなく死んでない。これがモットーであり、「あしたのジョー」のように、白い灰になるまで戦うのが自分の人生だと思っている。そんな私より何倍も熱心な人が(私よりほんの少し年下の人)仕事に取り組んでいる。つくづく頭が下がる。つくば市まで終バスで帰る人は、モダンジャズを大学でやっていた。テナーサックスの話になるとふっくらとやさしくて、かわいい顔がほころぶ。学校で音楽の先生をしていたら、きっと似合っていた人だ。いい人過ぎる人に、育ちのよさを感じる。もう一人は、学歴不詳だ。別に仕事に学歴は関係はない。45・6歳ではじめはどうなっているのと思っていたが、10ヶ月近くまい日同じ釜の飯を食っているような関係を続けているうちに、確実に仕事ができるようになって行く。日々逞しくなって行く。実はこんな事が何より嬉しい。きっとこの仕事でスキルを上げるだろう。後輩のアートディレクターが実に頼りになっている姿を見るのが嬉しい。私が独立をすすめたのは正解だった。仕事は人を育ててくれる。仕方ない一人で一杯やって行こうと、中国人が午前2時頃までやっている、「だるま亭」いわゆるフツーの中華店へ。だけどその味は私の好きな「菊鳳」と甲乙つけがたい。いつもは会社員の人や夜の仕事の人で、一階、二階も混んでいるのに、お客さんは太った中国人の男と細っそりとした女性の二人だけ。ビーフンを食べビールを飲んでいた。タンメンを食べたいと思ったが、それの弟分みたいなメンを抜いたタンだけの野菜スープを頼んだ。一合の冷や酒。壁の上のテレビには中居正広が出ていた。いいんだなこの旅芸人的気分、流れ者みたいなかんじ。店終えた女を待っているような、ヒモみたいな時間。この店のニラレバ炒めは抜群なのだ。カニ玉、エビ玉は泣けるし、タンメンは極上だ。今度はそれらを食べようと、メニューに語りかけた。私がこの仕事で組んでいるもう一人のアートディレクターは、腰痛がもう我慢できず今年の一月についに手術した。タイガーウッズが手術したものと同じものだ。幅広い腹巻きみたいなコルセットと、週に1度何故か手のくるぶしのところにカルシウムを注射しているのだとか。もの凄く優秀な女性のスタッフが5人いる。まだ完治していない体で次々と仕事をこなしている。私と違い一流のプロはどんな時も穏やかで冷静で優秀なのだ。オマチーサンシター、頼んだスープが湯気を立てて運ばれてきた。「だるま亭」のすぐ前には、コッペパン&マーガリン&ソースたっぷりコロッケの歴史的食べ物を売っている。有名な「チョーシ屋」だ。もとは精肉屋、若い女性に人気で昼は行列に近い。現在6月5日午前4時24分12秒。少し眠くなってきた
残してやるぞ、誰もやらなかった仕事を。(文中敬称略)

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