私の家から海岸まで歩いて約八分、海岸の脇にベイシティホテルといういわゆるラブホテルがある。
※写真はイメージです |
大きなビニールののれんの中に朝から晩までひっきりなしに車が入って行く。
先日海へひと歩きしに行ったらそのホテルの前に沢山の人だかりで、痴情にもつれた事件かはたまた売春か買春のもつれかと遠回しに見ながら歩く速さを遅くしたら、何人かの人が居た。何かあったのと聞くとそのラブホテルが立ち退いて直ぐ隣に新しく小学校が出来るので風紀上立ち退かなくてはならなくなったとの事であった。
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その日集まっていたのはラブホテルで使用していたベッドとか電気スタンドとか、カーテンとか風呂のバスタブとか二束三文だけで色んな業者が買い取りに来ているのだ。
商魂の逞しい事。ベッドは特に再生すればいい値段で売れるらしい。
気が付くと私はすっかりその集団の中に居て話を聞いていた。
何しろ好奇心だけは人一倍ある。三十代位の女経営者とその右腕の様な中年男が七人の業者と交渉している。
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会話の中で一番興味を引いたのはベッドや寝具に染み込んだ臭いをどう値付けするかであった。何しろ様々なカップルが享楽の売買と不倫とか許されざる行為を年々も支えて来た。ベッドや恥ずかしい姿を隠して来た道具達である。
染み込んだ体臭や香水や化粧や体内から放出された男女の液体の臭いは特殊なものであり消すのに費用が掛かるらしい。
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ベッドは1800円、小さな冷蔵庫は200円、ファンシーケースは150円、サイドテーブルは80円、電気スタンドは50円、掛敷ふとんセットは1500円とかで競売されていく。それはあっという間の出来事だ。安っぽい花や風景画はただであった。
2トン車のトラックや軽のバンが来ては去って行く。
私が33年前引っ越しして来た時は当時結婚式の名門、平安閣がありその前は子供達が夏は毎日の様にプールに行った地産ホテルがあった。
海岸の横にあるベイシティホテルは中々に風情があったもんだ。
立ち退き料をしっかりもらってどこぞに行くらしい。その隣に美しい小学校、私の孫が三年生と二年生から転入する。
アベック、カップル、訳あり、何千何万の愛の行為の「性界遺産」だ。
妙な怨念とか、怒りとか、別れのブルースとかカモンベイビーのロックンロールが聞こえて来る。有名人も沢山来ていたと地元の運転手さんから聞いた。
気が付くと四十分も居てしまった。
秋の陽はつるべ落とし、すっかり暗くなり初めていたが、女主人の笑い声は場違いと
いうか奇妙に似合っていた。平塚の風俗でNO.1であったらしい。
市原悦子と泉ピン子の体型に今陽子の顔をのせた様な女性であった。
再び歩き出して海岸を歩いていた私は、五木ひろしの「よこはまたそがれ」と井上陽水の「リバーサイドホテル」を口ずさんでいた。
ホテルの解体は簡単に終わったらしい。