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2011年7月26日火曜日

「男の夢」


人間には人に勇気を与える人と、人に勇気を与えて貰う人とに大まか二分される。

この場合私は後者の勇気を与えて貰う方だ。


映画監督鈴木清順88歳、「けんかえれじい」「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」などなど熱狂的なファンが多い。

私もその一人である。しかし私以上に鈴木清順のファンがいた。そしてその人と二人は結婚した。


本年度最高にロマンティックでいい話だ。

相手の女性は確か40歳、その差48歳外国ではヘンリーミラーとホキ徳田とかオナシスとかジャックリーンとかいくらでもいるが、そのほとんどは財産目当てだ。車椅子生活の鈴木清順さんと女性はなんと映画的関係ではないんですか。

きっと二人は強烈なインスピレーションで結ばれたのだと思います。


結婚というと直ぐに性生活はとか子供はとかが語られるが何もそれだけではない。

ただ居るだけで何だか心が落ち着く関係、一日中何も喋らなくてもいい、お互いにお互いの時間を過ごす。

あまり干渉しあわない、関係しあわない、ただ秋刀魚が食べたいと思えば秋刀魚があり、大根おろしがついていてついでに豚汁もあればいいなと思えば豚汁がある。そんなものでいいのである。

まさかナイフとフォークで生活する訳ではないのだから。噛んでも噛んでも固いハンバーグの時は本日失格といってお終い。

それが年の差がなかろうが、20歳離れていようが問題ない。例え自分の孫ほどの年の差でもいい男の夢だ。

カレーの中のジャガイモが固い。シタビラメのムニエルがフライパンにくっついてとれない。

スパゲティが固い、度を超したアルデンテだっていい。鯖の味噌煮が食べたいと言えばそんなの作れないでもいい。

ひじきが食べたい、作れない。梅干しつくってくれる、買えばいいじゃない。でもいい。


腰痛、肩痛、首痛に優しくインドメタシンを貼ってくる。

随分白髪が多いですね、筋肉が落ちてますね、足が細くなっています。一緒に散歩しましょう。

ちょっと気に入ったブラウスがあるの、4800円が3200円なの、買ってもいい?なんて会話はすこぶるいい。

原稿を書いてはゴロゴロしていると冷たいおしぼり、男はこんな世界に憧れるのです、永遠に。


一度しかない人生なんとか40歳離れた女性と夢の様な生活を小説上で書いてみようとおもう。

66歳と26歳と25歳の三角関係、それをジャマする46歳の女性と謎の女。26歳に好意を持つ医学教授、25歳を追い続ける料理屋の流れ板前。謎の女は当然謎でありつづける。足フェチの谷崎先生も、ロリコンの川端先生も、SMの団鬼六先生も、鈴木清順の男みなぎる人生には勝てなかった。


この間若尾文子(むかし大好き)、岡田茉莉子を見た。

顔はすっかりシワシワだがやはり美しく独特のオーラが出ていた。若尾文子には色気が漂っていた。

頑張れ60代、70代。フランス・イタリア・アメリカ、外国では本当の愛を探す年なんだから。

エレジーなんていい映画もあったしな。


私は人生の最後でマサカ、ウソ、シンジラレナイ、カンガエラレナイを演じて終わりたい。

映画的人生を。妻にも愛人にも家族にも友人にも見捨てられて冷たい大地に落ちて行く。もう誰もいない、金もない、気力もない、体力もない、何もかも失ってアイルランドに行きたい。U2のロックを聴いていると一人の若い女性がポツンと待っている。死ぬまでは一緒にいてあげる、でも一緒には死なないという。若い女性には明日があるから。


こんな事を書いている私の狭い部屋の向こうの部屋で赤いワインを飲みながら早く薬飲んで寝なさいよ、朝はカレーを食べるなんて言っている。パン?それともご飯?なんて、阿呆、馬鹿者、俺はいま文学しているんだと言って扉越しの会話は終わった。


鈴木清順さん私もします、きっとします。

子供も孫も可愛いけどもっともっと愛のスリルとサスペンスを追いたいのです。生きている証しです。

私から人を恋する心を失ったら鈴木清順さんから酸素ボンベを外すようなものなのです。

61歳の後白河天皇が愛し続けたのは14歳の待賢門院璋子でした。

ずーっとです、二人の愛は。

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