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2015年8月3日月曜日

「白昼夢」



虚無的な中年ヤクザが何年振りかで娑婆に帰って来る。
人を殺して刑務所に入っていたのだ。
駅から出てあふれんばかりの人混みを見て、男はつぶやく。
「こんなにたくさんの人間がいる、その中のどうしようもない人間を一人位殺してもどうってことはねえじゃないかと。」
正確に憶えていないがこんな出だしの映画だった。猛暑の頃になるとこの映画のことを書きたくなる。
原作/石原慎太郎、監督/篠田正浩、主演/池部良/加賀まりこ、であった。
映画の題名は「乾いた花」である。

水分を失ったドライフラワー。生きる目的を失った中年のヤクザはドライフラワーであった。
そこに現れた不思議な若い女、男にとって束の間の水分であった。少しだけでも生きる目的を持った。
篠田正浩の映画ではこれがNO.1だと思っている。

なんで人を殺したんだといわれ、「ただ太陽がまぶしかったから」と応えたのは、
確か小説「異邦人」の主人公の男だった。
映画ではマルチェロ・マストロヤンニがその役を演じたと思う。

猛暑は人間から、理性も知性も蒸発させてしまう。又、汗として体から流れ出す。
そして思考回路は停止してしまう。
熱に刺された人は正気を失い、狂気は玉のような汗をかき続ける。
その存在に生温かい殺気を感じる。何だろうこの人たちの殺気は、だらしなく大きく広げた足。
何かをクチャクチャと噛んでは道路にペッとはきすてる。
何人も道路脇に座り込んでいる。首にタオルを巻いた太った他国の男たち。

太陽がまぶしかった私は、異邦人の主人公のようにピストルを持ってなくてよかったと思った。
私は白昼夢を見ていたのかも知れない。

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