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2015年8月4日火曜日

「野火を観よ」




動物、植物、魚類、貝類、雑草、樹木、昆虫、鳥類、それに人類など。
大きな本屋の図鑑コーナーに行くと、えっ、こんな図鑑もあるのと驚く。
人間の歴史はこの図鑑に載っている物をすべて食べて来た歴史なのです。
はやい話人間は空腹に耐えられず、飢餓はいかなる人間も克服できなかったのです。

私が生まれた戦後は慢性的な食糧不足であった。
私たちはツバメの子がエサを求めるようにピーピー鳴きながら、親がエサをとって来てくれるのを待った。
都会に住む人々は、買い出しのために窓から身を出し、こぼれ落ちるほどのすし詰め列車に乗り、地方の農家へ向かった。
そして頭を下げて回り、ダイヤモンドと米を交換し、絹織物とジャガイモ、加賀友禅とダイコン、ニンジンなどと交換しては、大きなリュックサックを背負い帰って来た。
宝石類や時計にカメラ。刀剣や鎧兜、書画骨董類も胃袋に入っていったのです。
ハシッコイ者たちは、農家を回り、国宝級の名品を安値で手に入れて莫大な財を築いたのです。
何しろ元手はタダ同然だから。
今でも農家のどこかに名品はガラクタとしてあるはずだ。

鎌倉や銀座、青山の骨董屋に時々ブラリと入る。(買ったことはない)
その店の主人たちに共通している目付きがある。刑事の目である。
店に入ると必ず上から下へ、下から上へと人間をそっと値踏みするのだ。
一度ある店の主人に、骨董商なんて戦後の空腹が生んだんだぜ、ドロボーの上前ハネて生まれたんだぜといったら、こりゃまたダンナずい分とキツイことを、なんてヘラヘラ抜かした。
そこにある50万の壷なんてきっとどこぞの殿様のタン壷だったんだよ。などと悪タレをついてやった。
目付きのいい骨董屋さんに会ったことは殆どない。

今、渋谷ユーロスペースで戦記小説の名作「大岡 昇平の『野火』」を上映している塚本晋也監督・主演だ。
この作品を戦争法案賛成の全員に見せるべきだと思う。(食前でも食後でも)
人間が図鑑と名のつくすべてを食べて生き抜こうとした悲惨と無惨と執念が分かるはずだ。

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