紳士はすでに朝日新聞の朝刊を読み終え、かなりクチャクチャに畳んで脇の空席に置いてあった。
「原発立地首長6% 周辺53%」の大見出しがあった。
その右にスミアミ80%位に文字白ヌキで、再稼働同意「立地以外も必要」と中見出しがあった。
昨日のことである。
辻堂発九時三十七分古河行。
四人掛けは私と紳士だけ。
対面(トイメン)となった紳士は六十七・八歳。
キチンとサマースーツを着ていた。チャコールグレーであった。
ノーネクタイだがYシャツの素材はかなり上質であった。胸ポケットに白いハンカチーフがあった。
靴はリガールみたいで薄茶色でよく磨かれていた。
新聞をキチンと畳んでないのが気になった。
やけにでかいおにぎりを食べていた。
きっと愛妻の手づくりと思われる。フツーサイズの1.5倍はあった。
私が乗車して座った時は2分の1位を食べ終えていた。全身真っ黒のノリがメシを包んでいた。
中身はほぐしカツオか、ほぐしマグロだろうか。
銀座和光のほぐしシャケの瓶詰めだと小さな瓶詰めで一つ1500円位はする。
小さな緑色の粒々は山椒だろうか(?)粒々というからには食べるほどにボロボロと落ちる。
紳士は東京を向いており、私はその逆を向いている。ボロボロを気にしている。
な、なんと右脇おしり近辺から小さく光るものを右手で掴んで出した。
おにぎりは左手に移された。移動時にボロボロとほぐしが落ちた。
右手に持ったのはモダンなデザインの魔法瓶だった。
左右の足のモモでしっかりはさんでおにぎりを口にくわえ、空いた両手で丸いフタをクルクルと回して外した。
そのフタを窓の横の部分に置いて、魔法瓶から味噌汁を注いだではないか。
私の隣りの四人掛けには一人の大学生らしき男と、五十四・五歳のご婦人が座っていた。
プーンとワカメと味噌の香りがした。
私は新聞を広げていたのだが香りに驚いて顔半分以上を新聞から出した。
再び左手に持ったおにぎりはあと少しで食べ終わりそうだ。
こんな時フツーの人はじっと黙っているのだが、私はたいがい声をかける。
旨い!いいニオイだけど、おにぎりでっかいね。
紳士はニコッと笑った。
歯に黒いノリがついていればよかったのにと思ったが残念ながらついてなかった。
紳士が大きなシャックリをしたのは大船駅を発車した時だった(注)。
紳士とは紳士風の略である。
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