私たち夫婦と友人夫婦で行った初日のパーティーである。
備前、志野、瀬戸、益子等、大皿から大花瓶、片口茶入、ぐい飲みなど力作、名作、大作が広い会場に展示されている。陶芸教室の生徒さんたちが沢山来てお手伝いをしている。
退職前の会社以来の家族付き合いである。三十年以上になる。
で、パーティーに友人のかつての同僚がお祝いに来ていた。ほとんど私の知り合いでもある。人間十年会わないでいるとこれ程変形してしまうのかと思う人が多かった。何故か谷隼人が来ていて紹介されたがまるで丸太の様に太ってしまっていて識別不能状態、顔立ちだけは面影があった。
頭の毛がほぼ無くなりエシャレットみたいになった人、くわい頭の様になった人、具合の悪いかつらをかぶった人、寿司の軍艦巻きの様に周りだけ毛があり上は無毛地帯の人、又は不毛地帯の人。人間は髪の毛があるか無いか無くなりつつあるかでまるでイメージが変わってしまう。私とより四、五歳上の人達である。
友人の焼き物の話よりサッカーの話ばかり、凄かったね本田、見事だね遠藤、岡田は名監督だねと絶賛の声、W杯が始まる前とはエライ違いだ。やはり勝負は勝った者勝ちだ。
愚妻が花器を二つ買って会場を後にした。
それから友人夫婦とタクシーに乗り赤坂の濱寿司へ。一番若い板前にウルガイとパラガイを握ってくれと冗談を言った。
当然ウルグアイとパラグアイ(次の対戦相手)にかけた駄洒落だ。若い衆は私が相手だと緊張したのか。オヤジさんウルガイとパラガイ今日は入っていませんよねなんて真顔で寿司ネタのケースの中を見ている。板長がお前何やってんだよ、そんな貝ある訳ないだろう冗談をおっしゃってんだよと言った。すいません、間抜け者でと言った。悪い悪い、冗談だよと謝った。
店の親父が赤坂で一番旨い寿司と自分で言っているだけあってやはりどれも旨い。
この店とはもう三十五年の付き合いだ。TBSの側なので役者さんやタレントが多いのが気に入らない、二階を造って以来自民党の森、小泉、中川(秀)一派の御用達になった。森が首相の時SPを何人も連れて入って来た。テレビ局のカメラも数台付いて来て店の中も外も大騒ぎだ。テレビに出たがりの親父はテレビに向かってお辞儀なんかしている。
夜九時頃だった。そこへ私は友人と行った。親父が直ぐ寄って来てすいません、今日はこんな状態なのでと言うからどういう状態なんだよと怒った。
要するに今日は俺に遠慮してくれって言うのか、俺と森とどっちが大事なんだ、えっ応えろと大声出したらSPがガバッと寄って来た。何すんだよどけどけと言って店の中に入った。
カウンターの奥に森と中川、連れ達は二階へ昇る。
親父オロオロ、板長オドオド、若い衆四人真っ青、着物のスタッフ五人ヒソヒソ状態となった。親父にお前ミーハーだからいけねえんだよ、総理大臣なんか直ぐ替わるんだ、辞めれば自分の金でこの店来て高い寿司なんて食う事はないんだよと言った。私は空いていたカウンターに友人と座った。親父はすいませんを連発していた。何にすいませんって言ってんのと言うとすいませんと又言った。
森喜朗が総理大臣を辞任したのはその日から二週間後だった。
商売はな、昔からのお馴染みさんを何より大切にしなけりゃいけないんだよとお説教をした。その後ぱったり森一派は来なくなった(噂では回転寿司に行っているとか?)友人夫婦と寿司を食べながらそんなエピソードを話した。
親父は今度TBSの番組で自分と若い衆三人で有名人が食べる寿司屋さんのコーナーに出ますなんて言い始めた。よせよせそういうの、本当に出たがりだねと言った。本物の店はひっそりとやるもんだよひっそりとな。
愚妻がぽつりと口を出した、あなたこそひっそりしてよだって。もう若くないんだからケンカになる様な事は終わりだって。友人の奥さんが私は人が言えない事や思ったことをズバッと言う処がいいのよだって。