製図板にT定規、コンパスにデバイダー、烏ロ、30センチの溝つきの竹の物差し。
ガラス棒に面相の筆、雲形定規、ポスターカラーにケント紙、絵の具皿、鉛筆に消しゴム、筆洗い・・・。
等はデザイナーの定番の道具類だった。今はそんな物は一切ない。
一台のパソコンがあればOKだ。
昔のデザイナーは下を向いて紙に向かってデザインをしたが今は画面をじっと見てひたすら手を動かす。
パソコンを使っているのではなく、パソコンに使われている。真の創造は人間の五感を使わないと生まれない。
コンピューターには五感がない、だから人間は決して負けないはずだ。
何しろ何でも出来る魔法の機械なのだ。
オレなんかよぉー、溝引き(細筆の先っぽで)でよぉー、1ミリのオモテケイ(細い線のこと)の中に三本は引けるぜ、なんて自慢する。
何言ってんだ、オレなんて五本だぜ。
そこに女性デザイナー「何いってんのヨォ」
浅葉克己さんなんて十本だっていってるわよぉ、あの人素敵。
線の天才ね、入りたいわ〜浅葉克己デザイン室。
二十歳を堅気で迎えた頃、そんな会話がアチコチで聞こえた。
パチンコ屋の看板や喫茶店のマッチや、キャバレーのチラシで学んだ私にはまぶしい世界の始まりだった。