猛暑強烈、蒸し暑さ異常となると人間一人ひとりの動きも異常となる。
男も女も等しくまったりとだらしなくなってしまう。
歩く速さは猛烈に遅くなり概ねガニ股になる。
サッサと歩いている人は少なく、ぺったん、ぺったんと歩く。
扇子などで気取って風を送る女性は少なく、団扇を使ってヤキトリ屋さんかうなぎ屋さんみたいにパタパタ風を送る。
当然男はもっと気取ってはいられない。
ワイシャツのボタンを上から三つ以上外し、どこかの喫茶店から持って来てしまったのか、おしぼりで汗びっしょりの頭、首、胸などを拭きまくる。
中には体にハンカチを貼り付けている人もいる。
老人はお風呂と間違えたのか頭にタオルを載せて銀座和光のウィンドウの前に座っている。
猛暑は人々を無口にする。
街中無言の人々が、たまらん、たまんないわ、たまんねえとブツブツ呟きながら歩く。
ソフトクリームをベタベタ食べながら歩くOLたち、アイスキャンディーをペロペロ舐めながら歩く歌舞伎座周辺の着物の女性。
赤城乳業のガリガリ君をガリガリ食べながら歩く若い男女。
最早真っ直ぐ歩く事さえままならない位熱い日本列島だ。
一人ひとりよく見ると殆ど人はヨレて歩いているのに気がつく筈だ。
そんな中楽しい夜があった。
元サントリー宣伝部制作室長(現練馬美術館館長)若林覚さんを囲む会であった。
サントリーの名作を大量に生み出したのが若林覚さんだ。
博覧強記の人、一年365日の内365回以上美術館や展覧会を見て回る超人だ。
サントリー宣伝部でやはり数々のヒット作を作った吉村喜彦さんと奥様の有美子さん(電通でサントリー担当であった)奥様のプロデュースでPHP文庫から出版された「ビア・ボーイ」は第九刷となった。
吉村さんはサントリーを退職後、作家の道へ。
そして今NHKラジオ番組のパーソナリティもつとめて大人気だ。
グラフィックデザイン界の巨匠、井上嗣也さんは絶対遅刻をしない人。
やっぱりピタッと少し前に来た。長袖の白シャツと黒のスラックスはコムデギャルソンと決まっている。サントリーの名作は広告界の金字塔だ。
初めて会った人間は、初めてバンジージャンプをした時の様にオッカネーと恐怖感を持つ。
元電通のキャスティング部長江原立太氏はサントリーひと筋、ミッキー・ローク、ショーン・コネリーから矢沢永吉まで20数年サントリーのキャスティングを手がけた人だ。
一夜にして世界中のスターの動向がわかる優れ者だ。
男五人と女性一人。プロ中のプロと語り合う、その楽しさは格別だ。
映画、酒、本、美術、音楽、現代アートの話、それと楽しかった昔話だ。
仕事の話は一切なしで語り合う。
そして割り勘が決まりだ。女性の分は男が持つ。
吉村夫妻おすすめの店は格別の上を行っていた(店の名前は教えません)で、一人六千円ちょっとであった。外は異常に蒸し暑かったが歩く速さはまったりしていなかった。
楽しかったなあ、いい夜だったなーと言いながら別れ別れとなったのであった。