わさび丼 ※転載です |
「深夜食堂」という小林薫主演のテレビドラマが好きであった。
原作はマンガであった。
一番シンプルなメニューは、あったかいご飯の上にバターを少しのせそれにお醤油をかけてひたすらかき混ぜる。
ただそれだけだが、一度実験したら抜群に旨かった。
「孤独のグルメ」という深夜ドラマがある。
やはりマンガが原作だ。松重豊という中年の役者が渋い料理を食べ歩く。
すこぶる美味しそうなのでそれを紹介する。
真似して食べたが実に鼻にツンとして、舌にツンときて、胃袋にツンツンくる絶品の味だった。世にツンツン気取りの女性がいるが、それに醤油をかけて食べたら意外にもシンプルで、純情で、健気であった。
それ故情が深まり別れられないという様な味である。
料理名を「わさび丼」という。
漆のどんぶりにあったかいご飯を七分目位に入れる。
その上に上質の木から生まれたカンナ屑みたいなクルクルの鰹節をゴッソリ置く。
本わさびを一本買って来て、鮫肌の板の上でぐるぐる回しながら彩やかな緑色のわさびを生み出す。そのわさびを鰹節の真ん中にのせる。
そしてそこにお醤油を円を描く様にかける(少し多目がいい)。
後はただ無心にかき混ぜる。
邪心があると味が落ちる(?)つまりわさび丼はこれだけなのだ。
一度知ったら忘れられない。
混然が整然となる。
二十四日のテレビドラマでは、松重豊が西伊豆河津町の「かどや」という食堂で「わさび丼」を食べていた。400円である。
他にわさびを使った漬物など小皿四品がそっと付いてくる。
一度試してみて欲しい極上の丼だ。
その日の午後、辻堂駅からワンマンバスに乗った。
連れていた子どもが車酔いするのでタクシーはNG。
そこに二人の女子小学生が乗って来た。制服を見ると湘南白百合の生徒であった。
その二人がバスの運転手さんに向かってこう言った。「運転手さん、いつもお暑い中ご苦労様です」
頭にツーンと来た。
この子はこれからどんな女性になって行くのだろうか。
ブーッとオナラの様な音を発してバスは動き出した。
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