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2013年7月16日火曜日

「親と子」


ザトウクジラ ※イメージです


七月十日、見逃していたNHKスペシャルの再放送を観た。
午前一時から二時。第五回科学映像祭内閣総理大臣賞受賞作「クジラ対シャチ」だ。

最愛の母が死んだ時も、最愛の友や知人、恩人が亡くなった時も私は決して泣かなかった。男は人前で泣くなと決めているからだ。「クジラ対シャチ」を見て泣けた。
何故かそれはクジラの母親が子を育て、その子を守るために自らの命をかけてシャチと戦う姿にだ。

クジラは暖かい海でしか子を産み育てられない。
子どもに脂肪がつかないと、北の海ベーリング海には行けない。
アリューシャン列島付近は世界一のオキアミの産地なのだ。

母は子に泳ぎ方、息の仕方を教える。暖かい海には食料のオキアミはない。
蓄えた体力を使って子を懸命に育てる。そしていよいよ5000kmの旅に出る。
ベーリング海に入るには10km程の海峡を通らねばならない。
クジラの数約四万頭、オキアミ約六億トン。それを目指す水鳥約数千万羽。

アリューシャンマジックという超常現象が起きる。
ベーリング海は真黒となる。だがそこに行くためにクジラは獰猛な肉食シャチの攻撃を受ける。シャチもクジラなのだが。

旅をして来た子クジラの半分はシャチに食べられてしまう。
チームを組んだ頭脳プレーで攻めるシャチの脳力はとんでもなく凄い。
時速70kmと速い。クジラの母は子クジラのために必死に戦う(世界で初めての映像)。

だが子クジラはシャチの餌食になる。子クジラの食べ残された体はヒグマが食べる。
食物連鎖の世界だ。小さなオキアミの爆発的発生が生んだ弱肉強食の世界だ。
BBCNHKの共同制作、圧倒的な世界だ。

特に小クジラを守る母クジラの姿に、迷惑ばかり掛けたがいつも深い愛で守ってくれた亡き母を思い出した。自分は何も食べずに子を育てる母クジラ、体は三分の二に減ってしまう。シャチもまた、実は子どもを育てるために食料が必要なのだ。
クジラを攻めて食べなければ親子は生きて行けない。

グラスに入れたハイボールが腹にしみる。眼から涙が流れる。
だが地球上最も大きいクジラを最後に食べてしまうのは人間なのだ。
人間ほど獰猛な生き物は地球上にいない。一頭の親クジラが子クジラをシャチの攻撃から守りきった時に思わず拍手してしまった。

親子とは本来とても仲のいいものなのだが。
何故にこの頃自分が生んだ子を憎んだり、自分を産み育ててくれた母親を憎んだりするのだろうか。悩める親子はベーリング海に行けばきっと仲良しになれる。

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