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2013年6月12日水曜日

「1250円の付き合い」




五・八のお客さんとは5×8=40「しじゅう」利用してくれるお客さんの事。
三・三とは3×3=9「苦情」をいうお客さん。
710円のお客さんは7(ナナ)と10(トウ)だから「納豆」なお客の事。

銀座とか官公庁の側で深夜じっとロング(長距離)のお客を待っているタクシーの運転手さん。
例えば霞ヶ関でお役人さんのご帰宅を待っているところへ、すみませんいいですか、とかいって乗り込んで悪いけど銀座四丁目までといえば、そのお客は「流れ弾」に当たっちまったという事になる。ついてないというか、とばっちりという事だ。

逆に千葉まで行ってくれとか、埼玉とか神奈川までといえば運ちゃんは、ヤッター青タンの(割増の表示は青色)お化けだというヤッホーな事となる。
お化けとは、遂に出たぞみたいな事なのだろう。

タクシーの運転手さんは、野球の話と宗教の話と政治の話はタブーとしている。
下手に質問に応じたり、自分は◯△のファンですとか、□☓教はどうしようもないですねとか、☓☓党は日本を滅ぼしますね、なんていい気になってヘラヘラ喋ると、大モメにモメたりする。

私に仕事を出してくれていた大酒乱の人がいた。
ある会社の宣伝課長は大の巨人ファン。運ちゃんは大のヤクルトファンだった。
アタマに来て後ろからタバコの火を運転手の頭部にこすりつけちまった。
その日巨人がボロ負けしたのだ。

で、どうなっちまったか。
当然です、長い髪の毛がコゲコゲになってチリチリになってそのまま交番へ、行き先は調布であった。東京オリンピックのマラソンコース折り返し点の少し先にある交番へ。
で、十日間留置されたのだ。

こんなお客を「大きな忘れ物」というらしい。
確かに体の大きな人だった。
その後も何度か酔っ払っては交番のご厄介になったと聞いた。

その夜長い打ち合わせが終わり、赤坂五丁目交番斜め前から新橋までタクシーに乗った。その運転手さんは山形出身だった。名前が本間さんだったから、冗談でもしかして山形と聞いたら、えっなんでといった。
山形の鶴岡に本間家という豪商がいただろ、お殿様より偉いとかいう歌に唄われた程の商人がさ、だから当てずっぽうでいったんだよ。
びっくりしたですよ、あの本間家と全く関係ないですといって笑った。

私はタクシーに乗ると必ず名前を見る。
 山形はいいとこだな大好きだよといったら、お客さんはと聞くから岡山だよといった。山形のさくらんぼと岡山のブドウどっちも旨いなーと果物談義している内に新橋に着いた。1250円の短い付き合いだった。

これから稼ぎ時だ。
お化けの客がきっと出るぞ今夜はといったら、えっといって振り返って笑った。
立派なヒゲがお殿様の様だった。

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