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2013年6月4日火曜日

「出張無情」


※イメージ


何もそこまで速くなる事はないだろうと思う。
やがて新幹線で東京→名古屋をわずか40分程で行ってしまうとか。

今や青森だって、博多だって出張は日帰りになってしまった。
その土地その土地の風土や人柄や、名物名産を味わうこともなく、土地の美人を囲んでの酒席もない様だ。

新幹線の中で焼きちくわとスモークチーズとかをつまみに缶ビールとか缶チューハイ、缶ハイボールを飲んでグッタリ疲れ切った人、人、人が東京駅に帰ってくる。
中には鹿児島産さつま揚げをおみやげに買って来たのだがお腹が減ってしまったのか。
包装紙を開けて手を突っ込み、竹籠の上のさつま揚げを掴んで取り出し、口に運んでは胸に詰まって同僚に背中を叩かれたりしている。

かつて出張は仕事半分、余録半分みたいで「君、北海道に出張に行って来てくれ」とか「九州は博多へとか、京都へ」とか命令されるとハイ喜んでなんて事は決して顔に出さずとも心を踊らした筈だ。

京都といえば◎◯、札幌といえば□◎、博多といえば◎△、金沢といえば◯□、名古屋といえば□△、会いたいなあの女性、あの娘にもと思いをめぐらし、あんまり気が進まない風に一泊ですか、二泊ですかなんて返事をする。

ところが「アホ、今どき日帰りだ、朝イチで行って最終で帰って来い。次の日の朝イチの会議で報告しろ」なんて言われて意気消沈する。
チェッ!なんて気の利かない上司だ、自分はアッチコッチでいい思いしているくせに。
奴は鬼か蛇か無粋者めとなる。

世の中便利が過ぎると人間関係を悪化させ疲労を増長させる。
かつては遊びも仕事の内という良き風潮があった。
日本は極北から南は沖縄まで長い国、実に様々な風俗、民俗があり、多種多様の食文化がある。せっかく出張させたらそれに触れさせ、且つ学ばせ、更にその土地その土地の女性と語り合い、且つ深く知り合う事によって人間は幅広くなって行く。
将来の人間交渉力を育む事となる、学ばせよだ。

東北弁と一夜を共にし、ハシもあるでヨォーの名古屋弁と朝粥を食べ、はんなりとした京都弁でまたおこしやすなんていわれて朝の茶を一服二服し、もう会社辞めるわなんて言ったりする。九州の火の肌との触れ合いが冷めぬのをシャワーの冷水で治める。

また来てね、きっと待ってるごわすなんていう悪夢(?)を新幹線の混雑する自由席で見る。えっもしかして男だった、と。

お客さん、東京駅につきましたよなんて起こされて、あーあ夢か疲れた、あーあ明日朝イチで会議かい。やってられないな、マッタクとつぶやいてホームに立つ。
ゴミ箱の入り口から名物さつま揚げの包装紙が中に詰め込めず、くしゃくしゃになってはみ出ている。楕円形の竹籠が人に踏まれてぺしゃんこになっている。

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