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2013年10月16日水曜日

「黒いショーツ」


さらば愛しき大地




南無妙法蓮華経と二つの改名が背中に刺青されている。
男はダンプカーの運転手だった。

妻と二人の子のために無理をしてでも働き、小さな幸福を守っていた。
そんな男に悲劇は起きる。

ある日二人の子が水難事故に遭う。
男は悲嘆に暮れる。妻は子どもをしっかり監視しなかった呵責で傷んでいく。
男は酒に溺れていく。夫婦の間には再び接合しない亀裂が生じる。

ある日トラックに乗っていた男は一人の女と出会う。
男と女は互いに傷を塞ぎ合う様に体を合わせ続ける。
酒と女に身を沈めていく。

男にある日の思い出がある。海岸で子どもたちと食べた蟹だ。
食べれ、もっと食べれ、うまいだろうと。
男はすさんでいく、体に刺青を入れる。やがて男は女に出て行けという。
女を足蹴りする。

その足にしがみつき嫌だ、一緒にいてと懇願する。
女はジーンズを脱ぎすがる。黒いショーツがずり下がる。

この映画を物語る重要なシーンだ。
傷ついた男に出来る事は、何もない女にとって一つしかないのだから。

男を演じたのが「根津甚八」、女を演じたのが「秋吉久美子」であった。
この作品はベストワンとなり、二人は主演男優賞と主演女優賞を受賞した。
監督は「柳町光男」であった。秋吉久美子は切なく、哀しく、官能的であった。

根津甚八はその後、人身事故を起こしその呵責を背負い、重度の鬱病となり再起の道を閉じた。映画は時に残酷な因果をもたらす。


映画の題名は「さらば愛しき大地」であった。
「大地」を「映画」に置き換えると「さらば愛しき映画」となる。
映画の主人公は運転手であり、根津甚八を悲劇の主人公にしたのは車を運転している時だった。名優になるために生まれて来た様ないい役者であった。

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