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2013年10月11日金曜日

「赤いモヘアニット」

パリ、テキサス





グランドキャニオン、何処から来たのか分からない一人の男。
真っ赤な目出し帽、埃まみれのピンストライプのWのスーツ。
 汚れた白いワイシャツ、ひねくれたカーキ色のネクタイ、手には白いポリタンク水は既に少ない、ブルーのキャップを回す男。

空は澄み切って青く、雲は綿みたいに止まっている。
ライ・クーダーのギターが荒野に鋭く、重く、切なく流れる。
痩せた体、削げ落ちた顔には伸び放題の髭。

男はやっと荒野の中にある小さなショップを見つける。
汚れた冷蔵庫、壁にはヌードを描いた下手な絵。
冷蔵庫を開けると中にビールが冷えているが、男はそれを飲まずに閉める。
アイスボックスを開けるとそこにはクラッシュ氷、男はそこに手を突っ込んで氷を掴み口にする。そして男はそこに倒れる。

男は消えてしまった妻を探していたのが最後に分かる。
妻はとある町のテレフォンデートクラブのボックスにいた。
ブロンドの髪、鮮血の様な赤いモヘアニットで。ミラー越しに男と女は会う。
男から女は見えるが、女かからは見えない。

この映画はいわゆるロードムービーの始まりを告げた。
全編に流れるライ・クーダーのギターは胸に刺さり、その痛さが心地よかった。
ギターは血を流さないジャックナイフであった。

この映画の主演はナスターシャ・キンスキーとあったが彼女が出るシーンは限られていた。ヴィム・ベンダース監督はギリギリまで主役の登場を許さなかった。
ブロンドヘアーのナスターシャ・キンスキーが画面に出た時、息が止まった。

あまりに美しい。探していた愛する女を見つける。その長い月日をヴィム・ベンダースは劇的に演出し成功した。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した。

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