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2014年6月9日月曜日

「スルメイカと名画」


のどぐろ干物※イメージです


チューブに入っていたものが出なくなった時、人は逆さまにする。
天地を逆転させるのだ。
そして残り少なくなったものがじっとキャップに向かってずり落ちて来るのを待つ。

それは歯磨きジェルであったり、わさびやマスタード、トマトケチャップだったりする。気が急いでいる時などは早くしろと言ったりして上下左右に振るのだが、それは大して効果なく虚しい事となる。

私の知人ご夫婦がきっと大阪湾あたりを出て、四国、九州を経て富山湾に入ったのだろうか。寄港先からクール宅急便を送ってくれた。
開けるとそこには「のどぐろの干物」と「スルメイカ」が六枚ご丁寧にイカの足でぴったり縛られていた。きっと富山名産、その身は薄く、白く、繊細だ。
何よりの大好物だ。夜が深まるのを待って食す事にした。
水木金の深夜、そして土日と私はこの名産で楽しませて頂いた。

さて、スルメイカにはやはりマヨネーズとお醤油と唐辛子が決まりだ。
スルメイカはすこぶる白い肌、なまめかしく絡んでいるイカの足、ガスの上の金網の上にとろ火。
スルメイカは香ばしいにおいをその体から発しながら、ゆっくり、ゆっくり、藤田嗣治の描く白い裸婦像のモデルが喘ぎ狂うように、ベッドならぬ網の上でのけぞった後に丸まった。焦げ目が体についている。
手にしてほぐそうとすればアッチチとなり、指を耳たぶに持っていく。

小皿にお醤油をたらし、そうだいけねえマヨネーズだと冷蔵庫を開けると、キューピーマヨネーズは殆ど残り少ない。鷲掴みにし、上から下へと力を込めるが中身は動かない。
だが少しはある。仕方ない逆さまにして時を待つとする。

その間、スルメイカを細々とする作業に入る。
焦げ目の入った体を両手の指で引き裂いていく。アチチの温度も低くなってく。
作業効率は上がったが、目の前のマヨネーズは中々下りて来ない。

後輩が送ってくれたを、日本酒を亡き友がくれた志野焼の徳利の中に入れてある。
「のどぐろ」もいい感じで焼けて、赤い肌をジュウジュウさせている。
待つ事五分、六分、えーめんどくせえとハサミを持ち出し、動きの悪いマヨネーズの胴体を真っ二つに切り裂いた。そんでもって小さなスプーンでマヨネーズを取り出した。

雨が激しくコンビニに行けない。それ故この様な事となった。
深夜作業であった。特別、格別の味に旨い酒、雨もまた楽しの気分であった。

知人のご夫婦は超リッチな人、四国の宇和島で建造した木製の大型ヨットでアチコチ寄港して回るのだ。
もう一人大型ヨットを仲間で持っている人は、過日一週間位かけて九州の屋久島、五島列島方面を回った。スタートは確か宮崎(そこまでは飛行機で)、その時大きな「飛び魚」の干物を送ってくれた。これはガチガチに固いのだが、小さくばらして(歯が壊れてしまうので)やはりマヨネーズとお醤油で食すと、酒が何杯もすすんでしまうのだ。

フィンランドの巨匠、アキ・カウリスマキ監督の大傑作「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」173分と「愛しのタチアナ/浮雲」158分を観る。
夜明けまで、飛び魚とスルメイカとのどぐろと酒、名画にピッタリなのであった。
土日、この二本の映画にインスパイアされた二本の映画のシナリオを書いた。

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