東京都青梅市御岳山にある御嶽神社と、そこで行われる薪神楽の取材撮影に行っていた。
知人の方が御岳山ロープウェイの社長になったのでこの機会にと思いかねてより興味があった山岳信仰、中でもニホンオオカミ信仰の現場に行った。ペットも一緒に乗れるロープウェイは最大斜度が25度近くある。
御岳山駅には、ツキノワグマが出るので注意とポスターが貼ってあった。
ニホンオオカミは100年前に絶滅したらしい。猪や鹿が大切な農作物を食べてしまう。
猪は特にユリの根を好物にしてそれこそ根こそぎ食べてしまう。
ニホンオオカミは山の中、小さな田畑にやっと出来る農作物を猪や鹿などから守ってくれる、山の神だったのだ。
宿泊先の宿坊のご主人は御師(おんし)でありみたけ山観光協会の会長さんでもある。
そこにやはり御師兼副会長のご兄弟も来てくれた。御嶽神社の宮司さんは次の日、国宝を見せてくれた。
薪神楽は神社と宿坊の間にある大地に舞台を作り、御師や老若男女がそれぞれ狐になり翁になり、ひょっとこになる。
それらを撮影する。また、御嶽神社に向かう急な階段の両脇を、各県の人々が建てた○△講、○□講と彫られた石塔が頂上の神社までずらりと並ぶ、それを“火の玉ゆうれい”の目線で撮影する。
山の中には32戸が住んでいるという。
山の中での宿泊は浮世をしばし忘れさせてくれる。
山の民との話は深夜まで続く。歴史と伝承、民話の世界に時を忘れる。
一人でも多く山に来て貰いたいというが、都会人があんまり来ない方がいいとも思う。
ピカッピカッといいアイデアが美しい星空の下で浮かんだ。
布団に横になると、足腰がパンパンに張っている。久々に山をあるいた独特の張りだ。
次の日に行った作家の浅田次郎さんと縁のある立派な宿坊の大広間に浅田次郎さんの名作、「壬生義士伝」の生原稿が飾ってあった。几帳面なペン文字で見事な原稿であった。
宿坊の食事はヤマメやアユの塩焼き、こんにゃくの刺身、山菜料理。
とても質素だ。山の宿坊は心と体に染み込んだ都会の贅沢を忘れさせてくれる。
残暑が厳しいが山の中は紅葉が近づきつつある。虫の音が闇の中に聞こえた。
舞台から投げてくれたおもちを二つ食べた。固く味はないがニホンオオカミが守り続けた山の味だ。
お土産に馬肉と鹿肉が入ったレトルトカレーを買った。商品名は「馬鹿ヤローカレー」である。