朝日新聞より |
芸術なんてものは実のところこんな物かもしれない。
雨に降られてかなり濡れて帰宅した。
夕刊を広げたら痛快な記事があった。
イタリア捜査当局が2日、盗まれたポール・ゴーギャンの静物画をシチリア島で発見したと発表した。
所有していたのは元工場労働者の男性、同時に盗まれたピエール・ボナールの作品とともに、75年に競売で4万5千リラ(約3千円)で購入し、台所に長年飾っていたという。
当局はゴーギャンの作品だけでも少なくとも1千万ユーロ(約14億円)の価値があるという。2作品は盗難直後イタリア、トリノの列車内で発見され、価値に気付かれぬまま保管された後、競売にかけられたのだ。
男性は当時自動車大手フィアットの工場に勤務。
自宅のテーブルに合うと考え、絵を買った。
引退後男性の息子が絵画の目録で似た作品を見つけ、鑑定を依頼していた。
で、きっと息子は内臓が全部口の中から飛び出るほどびっくりして、ブッ倒れて気を失ったかもしれない(ひょっとしてあの世に行ったかも?)。
芸術的価値とは作られるものだから、本人が3千円でも高えよといえばそんなもんであり、偉い先生や鑑定士や画商たちがこれは13億円だといえば、へえーそうなのとなるものである。つまり買いたいという美術館や画商や収集家、金の使い道に困っているが競り合えば値はグングン上がって行く。
それが証拠に芸術家は生前は殆どビンボーで無名であり、死んでから値がつくのだ。
そして有名になっていく。
ある高名な美術評論家によると日本の美術館にある絵の80%は偽物、有名骨董品屋にあるものは殆ど偽物だという。なにしろ鑑定士そのものが偽物ばかりで、その偽物たちが本物を手にするのは、宝くじに当たるみたいなものらしい。
まてよ、本物だと鑑定出来る鑑定士がいないのかもしれない。
「フーテンの寅」にこんなシーンがある。
ある旅先で寅さんは老陶芸家に会う。陶芸家は寅さんが気に入って、お皿の様な物を一枚あげる。ある時陶芸家の弟子が、先生の展覧会があるのでしばし返してほしいと寅さんに頼む。あーあれか、あれはタコにくれてやったよ。
タコとは「とらや」の隣で小さな工場を経営している社長のアダ名だ。
タコ社長はその皿を灰皿代わりに使っていた。
人間国宝の陶芸家の弟子は、オラッ返すよと投げつけられた皿を地上スレスレでキャッチして気を失う。寅さん、タコ社長にとって人間国宝の作品もただのお皿なのだ。
権威主義への山田洋次の痛烈な風刺だ。
3千円のゴーギャンを台所に飾り、パンをかじりながらパスタを丸め、スープを飲んでいたなんてイカした男ではないか。
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