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ある年、飲酒の席でジョークの名人だった亡き友が、フランス語で妊娠の事を何ていうか知っているかと言った。
日本語すらよく分かってないんだから、分からないと私が言った。
一緒に飲んでいた人間も分からないと言った。
ただ、どうせいつものジョークだろうと分かってはいた。
「シャセジュセ」って言うんだよと言った。
へえーそんなんだ、で、ジョークの種を明かしてと言った。
“シャセジュセ”=射精して受精するからだと得意気に笑って友は言った。
上手い!座布団一枚だねと私は言った。
こんなジョークを次々に飛ばす親友は今はあの世だ。
チクショウもう少し生きていれば病気はきっと治ったのにと思わせるテレビ番組を見た。NHKスペシャルのミクロの世界シリーズだ。
CGが目ざましく発達したので人間の中の仕組みが全て見れる。
それは得体の知れぬ神の領域であり、誰も描く事が出来ないアートの世界だ。
人間の全ての細胞は、シャセジュセ→受精卵から生まれる事を知った。
たった一つの細胞の誕生は男(オス)と女(メス)との動物的行為から生まれる。
オタマジャクシみたいな無数の精子がチョロチョロしながらやっとこさ一個の卵子に出会い、くっついた瞬間に一つの生命は誕生し数十兆もの細胞が作られていく。
人間の中に出来た細胞の中に、あらゆる病原体をやっつけてくれる免疫細胞がある。
ところが最近この免疫細胞が暴走して自己の免疫細胞を攻撃してしまう事が分かってきたのだ。これにより今まで不明だった様々な病気の原因とその進み方が分かってきたのだ。難病の原因とその治療法が見えてきたのだ。
あと一歩のところまできているので決して諦めないでほしいと思う。
シャセジュセで生まれた免疫細胞は思春期の頃に消えて無くなるらしい。
神は人間が100歳近く生きる事を考えていなかったのかもしれない。
思春期を過ぎた人間の免疫は色々やりくりして病気から守ってきてくれていたのだ。
遺伝子医学はこの免疫細胞を作ってくれるらしい。
受精卵という途方も無い奇跡的なものを再生すると、人間は死ななくなるかもしれないのだ。難病は近いうちにきっと治っていくはずだ。
人間の卵子は神の子だ。
街には社会人の卵たちが黒スーツを着てウヨウヨ酔っ払っている。
歓送迎会の後にシャセジュセになる事が多い。いよいよ春は盛んになって来た。
「オレがむかし神の子だった頃、オヤジは精子でオフクロは卵子だった。
兄貴はタダの子で妹は玉子だった。イエーイ!ワカルカナ、ワカンネーダローナ」(松鶴家千とせ風)実のところNHKスペシャルを見ていてよくワカンネーなのだが大きな期待が膨らんだ。
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