私が生活を営んでいる街に辻堂商店街がある。駅のロータリーをはさん東西に50軒くらいの店があった。私の愛用するボールペンの太字と細字、unibollの太字は原稿用、細字は校正用に使用していた。四百字詰めの原稿用紙はコクヨである。土曜日それを買い求めている、松本文具店に行くと、来週いっぱいで閉店すると言われた。えっホントと小さなオバアちゃんと太った娘さんに言った。もう無理なんです。来週は全品半額です。太字のボールペンの芯はいつも一箱買うのだが、5本しかなかった。その文具店の斜め前にあった、小さな書店も閉店した。腰越港に上がるいい魚を出していた鮮魚店も終わった。5本の芯を買って、その横隣にある魚屋さんに立ち寄った。小型のイカがひと皿に3ハイ600円であった。まったくイカが高いんですよと顔なじみのオバさんが言った。真鯛の三ツ切りがあった。それも600円。浅利が少しで200円。それを買って帰った。普段は自分で買い物はまずしない。おでん種の店もいつのまにか空き地になっていた。和菓子屋さん、おにぎり&おいなり屋さん、ケーキ屋、オモチャ屋さん。紳士ものの洋品店も消えた。絵の具を買っていた画材店も閉めた。40年以上の付き合いの店がみんな閉めていく。しょんぼりと家に着くと、47年間我が家のように利用していた、東京のお寿司屋さんが4月19日をもって閉店するという手紙が来ていた。先月行った時はまだそんなことは言っていなかった。人と街との関係がインターネットの時代になって、すっかり変わってしまった。今はスーパー、ドラッグショップ、コンビニ。 話す相手はウーさん、マーさん、ハンさんたちに変わった。やっぱり昭和はよかったなと思った。文具店、書店、画材屋さんのない街の未来はツライ。人の心と共に街は消えて行く。作家故開高健は家を引っ越す時は、まずお豆腐屋さんを探したという。
そして茅ヶ崎に引っ越してきた。豆腐屋さんは、すでにない。
1 件のコメント:
いつも興味深い話題に、拍手喝采しております。
作詞家の松本隆さんは、なんでもかんでも壊してしまう東京に別れを告げ、神戸に居を移したそうです。辻堂の移りゆく景色と東京のお話は、ジワジワと「いたたまれない気分」にさせられてションボリする状況で全く同じと思いました。近い将来、ショッピングモールができて
地元の生活が一気に「上書き」されてしまうのでしょうか。そこにはイカも魚もボールペンの芯も画材もなんでもあって。ただ、「地元の文化は?そこに本当の文化はあるんか?」と、TVCMの大地真央さんのように訊きたくなりますが・・・。
コメントを投稿