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2010年2月7日日曜日

人間市場 ヤキトリ市

駅から80メートルの辺りにヤキトリ屋さんがある。


正確ではないが、その位である。


北風の場合問題なし。西風問題なし、東風問題なし、問題は南風の時である。


南風が秒速2メートルを超すと、問題の度合いは倍加する。ヤキトリ屋さんから漂うただならぬ香り、匂い。英語的表現で言うならナイスな風が体の動きを止める。左にタクシー乗り場、中央の方向にヤキトリ屋さんである(鳥一という)。心と体が右に左に綱引きを始める。帰ろうかな、帰るのよそうかなである。


このような場合、ほぼ7、8割はタクシー乗り場に向かう。意志を強く持て、自分に負けるな、まだ6時だ、飲むには早すぎる・・・・と腹を据え深呼吸して我が家へ帰る。


本日も7割の確率論に従ってタクシーに向かう。


だがしかし、風速が3メートルから4メートルになると、もういけない。駅の階段を降りてタクシー乗り場まではほぼ20メートル。その間に頭の中は清酒黄桜のグイ呑みの如く、蛇の目にグルグル回る。1歩前進である。ハツ、レバー、タン塩、シロ、カワ、カシラという恍惚が頭を支配する。次いで重なるようにモロキュー、そしてとどめにモツ煮込みが脳内に確固たる座を占める。


主治医の顔が頭に浮かぶ。尿酸値のデータが頭の中をよぎる。足がフランスパンの様に腫れ上がった痛風の写真が、頭の中でカシャッとシャッターを切る。


何、5.8だろ、7.0からが危ないと言われただけじゃないか。まだ1.2ある。待て、後1.2しかないぞ。最近はどうも気のせいか、足の指がヒリヒリする。いや、気のせい気のせい、と自分を励ましながら、気がつくとヤキトリ屋さんの前に立っている自分がいる。


もうもうとした煙、バタバタと人を煽るようにタレを浴び年季の入った団扇が叩かれる。このリズムはお祭りの様に人の心を煽る。


一度は通り過ぎたのに。じゃ、何処に行くんだ。それもそうだな。一杯に三本ならいいんじゃないの?ま、二杯に六本でも。煮込みはやめとこ、トマトサラダとかグリーンサラダとか野菜をいっぱい食べよう、と思った時はもうカウンターに座っている自分がいる。


俺は駄目な奴だ、どうして意志が弱いんだ、なんて自省心はすっかりありません。


すいません、キリンビール。それと、いいですか?レバー一本、タン塩一本、ハツ一本、つくね一本、カシラ塩で一本、シロ一本、それから冷や奴。すいません、ビールお代わりしてくれる。


人間は何て弱いんだ、ヤキトリはなんてうまいんだ、ビールはなんておいしいんだ。


蛙が大きく口を開けた器に竹串は増えていく。南風はもうすっかり止んでいる。やがて我が身に吹く風は通風か。てやんで、通風が恐くてビールが飲めるか?そうだろと、親父に言う。






1 件のコメント:

sakon さんのコメント...

東本さんのこの文章はいけませんね~。呑みたくて食べたくて、どうしようも無くなります!!情景や匂いまで伝わってきます。また、焼き鳥同好会お願いします!!笑