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2010年5月27日木曜日

人間市場 川柳市


老婆八人一列に並んでレジに向かう。
あたしゃポテトソーセージグラタンです、ハイ九百八十円です。私は鮭のムニエル、ハイ九百八十円です。ワタスはカニコロッケです、ハイ九百八十円です。あたしゃスパゲッテーカルボナーラ、はい九百八十円です。あたしはえーっと何だっけ。えっーとピザマルゲリータでしょ。そうそのマルゲリーダ、ハイ、マルゲリータですね九百八十円です。私はロールキャベツです、ハイ九百八十円です。わたしや和風ハンバーグ、九百八十円です。わたくしはブイヤベースざんす、ハイ九百八十円です。

これを一人一人レジで支払うのです。財布とかガマ口からお金を出すのに手間取るのです。全て均一のランチメニューなので料金は同じなのです。一万円札で、五千円札で、ジャラジャラ五百円玉+百円玉+十円玉で(五十円玉もあり)、千円札で、ポイントカード押して下さいとか九番目に並んでいた私たちが精算出来る迄、二十八分。いやはや待つ事長し。

昨年までランチは千百円だったのですが、周りがみんな値下げしたのでやむを得ず値下げしたのです。ランチ九百八十円で統一されているのだから食べ終わったらテーブルでそれぞれ九百八十円出し合って誰かが取りまとめてレジに出せば直ぐ支払い済みになるのに、それが出来ないのがこの女性達なのです。

七十代〜八十代の人たち。何となく耳に入って来てしまう話の内容は民謡教室の帰りらしい。どおりでみなさん声が高くて声が通ると思った。いい加減並び疲れたが相手は老婦人達、ジッと我慢をして立ち続けました。

コロッケも少し小さくなったわネ、ハンバーグも少し薄くなったしデザートのアイスは一種類減ったわね、マアこんなご時世だから仕方ないわよネなどとかしましい。
この時私は並びながら最近十年間の川柳の第一位作品を読んでいた。
00年 プロポーズ あの日に帰って 断りたい
01年      ドットコム どこが混むのと 聞く上司
02年      デジカメの エサは何だと 孫に聞く
03年      タバコより 体に悪い 妻のグチ
04年      「課長いる?」 返った答えは いりません
05年      オレオレに 亭主と知りつつ 電話切る
06年      昼食は 妻がセレブで 俺セルフ
07年      脳年齢 年金既に 貰えます
08年      「空気読め!!」 それより部下の 気持ち読め
09年      羞恥心 無くした妻は ポーニョポニョ
こんなのがありました。

「七十歳 オラの村では 青年部」限界集落の人でしょうか。
そうです、老婦人達は青年部なのです。出たものはキレイに食べキレイに飲む。よく喋りよく笑いです。やがて日本は半分位が五十歳以上になるのです。後二十五年位です。

「定年が あったらいいな 主婦業も」なんていうのもありました。「あなただけ 言った妻が あなたどけ」なかなか秀作です。


やっとレジに向かった時、自分も随分と年を食ったなと思いました。若かりし頃ならきっと早くして下さい先を急いでんだよ、オバアチャン達は先を急いでないだろう、悪いけど先に支払いさせてと言っていただろう、そしてこんな反論を受ける。アタシ達だって先を急いでんですよ、もう先がどんどん見えてんですからなんて。
何しろこの頃はオバアチャン達にはとても優しい私なのです。

つい先日オバアチャンはタッチボタンの押し方が判らなく、辻堂から茅ヶ崎まで180円でその切符が買えなくて、スイヤセン倅が180円だと言うのですがややこしく判らないんですよ、宜しくお願いしますと200円渡された。ハイ、オバアチャンこれ20円お釣りだよと言うと何度も頭を下げてきました。自動改札に切符を入れて手を繋いであげて階段降りてホームのベンチに座ってもらいました。
かなり目が悪い感じでオバアチャン電車がホームで止まるまで立って動いたらいけないよ、隣に座っていた若い男にオバアチャン茅ヶ崎まで送ってやってなと言ってそこを離れました。

何か今日は良い事があるかもなと思ったらその日は最悪の日となりました。世の中は甘くはなかったのです。
親孝行したい時には親はなしか。

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