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2010年7月5日月曜日

人間市場 ヘビー級市

七月二日午後四時、二人の女性が来社された。
一人は今年の二月六十二歳で急死した親友の愛した女性。一人は親友のデスクをずっとしていた女性。彼女たちは過日沖縄の海に親友の遺骨を散骨して来たのだ。その報告に来てくれた。青い海に白い影、まるでジュゴンが泳いでいる様であった。





一年に一度彼女と二人でバリ島に行くのが楽しみな男であった。何故妻がいるのに妻がしないのか。夫婦仲は難しいものである。男は神奈川の辻堂に住まいが有り、東京までキャデラックかハーレーで通っていた。子供は男三人、二人は双生児である。花火職人、料理人、庭師であるという。既に三十代中頃だ。

毎日ハードな仕事、ストレスを溜める仕事をする男にとって妻が待つ家はいつか安らぎの場所でなかった。酒も飲まず煙草も吸わず仕事をしている時が一番イキイキしていた。私とは二十代の時からの付き合いでお互いに仕事を頼んだり頼まれたりしていた。

親友が亡くなった後、妻は通夜にも告別式にも来ない。そちらで勝手にやって下さいと言って来た。又お墓もありませんから、どこかに散骨でもして下さいと言うではないか。一体どういう夫婦だったのかと思った。

夫婦とは元々赤の他人と云うがそれにしても血も涙もない。
私の目の前に居る女性は散骨の写真をアルバムにして今なお精神的に立ち直れず少々鬱状態であり、何度もすみませんと言いながら涙を拭った。
聞けば全ての遺品は処理したが小さな引き出しの中に私が出し続けた手紙と葉書をしまってあったと言うとても大切にしていましたと言われ私の目頭は熱くなった。


わずか半年前までは身長180㎝、体重76㎏の男が大きな声で自慢のアイデアを私のところのスタッフに熱く語っていた。僕は時々自分は本当に天才じゃないかと思うんですよと本気とも冗談ともつかぬ口調で語っていた。

私は「よろず相談室」を開設しているので様々な相談が来る。
今気が重いのは70代夫婦の離婚話だ。先週の深夜奥さんから電話、今夜は出張でいないからと約一時間半その内容の重い事。近々お会いする事にした。早く会って下さい、そうでないと私が何かされるか私が何かするかもしれないと言う、物騒な内容だ。次の日それとなくご主人に奥様はお元気ですかと聞くとあの鬼婆と言った。息子さんが私の処に居た事があり私達夫婦が仲人をした。息子は香港にいるのだがこの間離婚した。人生とは一つの歯車が壊れると一気に崩壊を始める。

一人の女性は中堅の画家である。デパートで年六回個展をする。相手の男は私の後輩、先日胃癌の全摘出手術をした。長年の老人介護のストレスと疲れが原因だと本人は言う。彼女は夫婦別れし画業に専念したいと言う、そこにはもう愛のカケラもない。

この歳になって受ける別れ話はヘビー級の内容が多い。
年金、仕事減、介護、老人ホーム、葬式お墓、保険、借金、保証人、裁判等々の言葉がワンツーパンチの様に浴びせられる。
共通しているのは男はオタオタし女は矢でも鉄砲でも持って来いという開き直りがあり男はグダグダ未練がましい姿だ。こんな相談を後二つ三つ受けている。若い愛人を作り金目な物をみんな持って逃げた。かつての良妻賢母、一度の火遊びが眠っていた女の本能に火を付けてしまった。

その逆もいる。石垣直角マジメ一筋で無事定年を迎え、ほっとひと遊びしたのがこの世の終わり。男は未だ行方不明。退職金をソックリ持って早数ヶ月娘さんに時々メールが入るとか。お父さんは今とても幸福だなんて。探して下さいと言うから嫌ですよと断った。


尾崎士郎は人生は劇場だと云ったがまさに一寸先は闇の世界だ。絵に描いた様な幸福な世界はこの世にはない。トンネルを抜けるともっと長いトンネルだった。夢から覚めるとそこは悪夢だった。心を鍛えておきましょう。


1 件のコメント:

しきろ庵 さんのコメント...

凄いですねー!いろいろな人生模様を見せてくれる、東本さんのブログ。楽しみにしております。