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2010年7月8日木曜日

人間市場 寝室市

天上にへばり付いた20Wの蛍光灯が五本、そのうちの2本が寿命を迎え最後の力を振り絞ってピカッピカッと規則正しく光る。蛍光灯の両側が黒く痛んでいる。
六畳の板の間にマットレス2枚、その上にガーゼ地の敷布、タオルケットが私の寝具である。

この場所は寝室ではなく寝る場所である。
マットの周りには読みさしの本、使わなくなったルームランナー、小さな文机、指で押さないと映らない古いテレビ、アロハシャツやTシャツ類を入れた4つのケース、枕元にお気に入りのバカラのグラス、水差しデキャンタがある。足の踏み場はない。

知らない人が見れば物置である。
自然に出来た雑然、私はこうした空間が好きである。降りしきる雨音と死にかけた蛍光灯の光、ピカッピカッという小さな音のフュージョンが何ともいえない私好みの風情となっている。そこで今二人の作家が書いた宮本武蔵を読んでいる。

一冊は六十歳でデビューし現在八十歳の作家、加藤廣氏の「求天記」486頁。
もう一冊は小嵐九八郎氏の「悪武蔵」546頁だ。両作家共私は大ファンである。
「求天記」を読了し「悪武蔵」に突入している。遅読であるので中々先に進まない。





私は寝室という空間が奇妙でならない。
偶然知り合った男と女が毎日一緒に寝る。何となく不気味ではないかと思う。


過日友人の個展で久し振りに懐かしい人に会い一杯飲んだ、現在六十八歳だ。
この人は面白い人で大会社の役員であった。奥さんはミス鎌倉であった。四十二歳の厄年を目途に自らを鍛えたのだ。それは伊賀、甲賀、根来忍者も成し得なかった修行だ。

深夜家に帰るとそっとベッドルームに入り自分のベットに入る。しめしめ女房は眠っている。ベッドに潜り込もうと思った瞬間、隣のベットの中から二つの目がギョロリと睨んでいる。うへぇ〜と潜り込む。翌朝は修羅場となる、又浮気したわねと散々罵られる。

ある日ピッと閃いた、そうだ女房の前ではインポになればいいのだ。
自分がインポである事が証明出来れば浮気はしていないが正論として成立する。それからは無念無想ソープランドへ通い詰めあらゆる手法、口法、体法に対しても反応しない自在な息子を育てあげたのだ。

三年の月日、莫大な経費と精を放出した。その間奥さんは熟れた体を持て余し求めに求めた。当初は心とは裏腹に息子は反応し続けたが鍛錬の結果が出始めた。性豪のあだ名を持つその人はその間当然若い女性を抱き続けていた。そして遂に大願成就した。

あなた一体どうしたの、何をやっても一向に反応しない。インポなんだ駄目なんだ、だから浮気なんか出来る訳ないだろうという事が証明された。奥さんはガックリ方を落とし最低と言ったという。

その話を久々に聞きみんなで大笑いとなった。が、話は変わった。やっとオムツが取れたんだよ、何だかスッキリしてんだと言ってグイと一杯飲んだ。8ヶ月前に前立腺癌を手術していたのだ。もう鍛錬の必要無しだよと言って力なく笑った。

寝室は今でも一緒なのと聞くと、まさかずっと昔から別々、自分だけ狭い処で寝てるんだ。ここが又いいんだよ、物置みたいだけどねとなり、私の物置寝所論と一致し話は盛り上がった。


楽しい酒を飲み別れ際、いま若い子と遊んでいるんだと言った。
色々遊び方はあるものだよと言って駅に向かって行った。やはり性豪であった。
この人は有名である。奥さんはその後どうしたかはご想像に。

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