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2014年3月5日水曜日

「寿し利の謎」




お寿司を食べる時は、心を許せる人とか、長い付き合いの人とか、阿呆とか馬鹿とか言い合える人がいい。暗い、理屈ぽい、辛気臭い人は極力避けた方がいいと思っている。
それとワイワイガヤガヤしている店もよろしくない。
親父さんと奥さんと若い衆が一人か二人位が理想だ。


先夜、心から大好きな、長い長い付き合いの大手広告代理店の友人と久しぶりにお寿司をつまんだ。

この店には親父一人しかいない。
奥さんは施設に入っている(少しずつボケてしまった)。
若い衆はむかしいたのだが今は一人もいない。ついでにお客という者がいない。
長い付き合いなのだが、お客さんがいたのは数える程しかいない。

トイメン(目の前)が寿司屋であり、隣も寿司屋である。
寿司屋の名を「寿し利」という。
お客が来ない度99.9%位だからギネスブックに載るかもしれない。
ネタは普通、値段も普通。

昭和初期のラジオの様なものからチューニングはずれの大きな音が流れている。
ラジオウルセイというと、林家木久蔵にメガネを掛けさせ、日本手ぬぐいでハチマキした様な親父が、ヘイ、ヘイ、ヘッヘッヘッと不気味に笑う。

私はこの不気味さと、全くお客がいない静けさが好きなのだ。
友人と二人で座る。カウンターのみ、十人程しか座れない。
奥さん元気かというのが始めに言う言葉とほぼ決まっている。
とても品のいい女性だったのだが、リーマン・ショック後、ガタン、ガタン、ガタンとお客さんが減り、心配で鬱病になってしまった。鬱に詳しい身の私はその辛さが分かる。

いつしか「俺が来ねえーと潰れちまうんじゃねえか」と思う様になり、ゆっくり、じっくり、楽しく話をする時は「寿し利」にする。やっぱり一人もいない。

久ぶりに会った最高の友人と話が弾む。
お寿司は正直な食べ物で、あんまり好きでない人とか、あんまり好きでない話をしながら食べるとさっぱり旨くなく、なんだメシの上に刺し身の切れっ端が乗ってるだけの味となってしまうのだ。

先夜は本当に二人だけで楽しかった。
普通の寿司が特上みたいに旨かった。

ところで握り寿司はいつ誕生したか、それは文政年間(181830年)江戸からと伝えられている。福井県出身の寿司職人「華屋与兵衛」が確立したらしい。
与兵衛は酢を混ぜた飯と、酢で〆たり煮たりして、一手間加えた江戸湾の魚介を握り屋台に並べた。手軽に腹が満たせるとせっかちな江戸っ子の評判を呼んで江戸は寿司屋だらけとなっていったらしい。

実はこの話を教えてくれたのが「寿し利」の親父だった。
本人は、ヘッヘッヘッ忘れましたというのだが、中々の教養人なのだ。
他の寿司屋でこの話を知っている板前に会った事はない。

久しぶりの友といい時間を過ごすには是非「寿し利」をご利用くだされ(私は喫わないが煙草もOK)。多分お客は一人もいない。でもずっと潰れないという謎めいた店なのです。

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