朝日新聞、リレーおぴにおんより |
十一月十九日(火)朝日新聞朝刊十五面に「リレーおぴにおん」私の悪人論⑧。
元北海道警警部であった、稲葉圭昭(よしあき)さんの話に、この国の警察の闇の一端を見た。また人間は強いようで弱いものなのだというのを確認した。
書き出しはこう始まる。
ヤクザと言えば反社会的存在で悪人というイメージですが、刑事として多くのヤクザと接してきた実感としては、彼等の大半は悪人というより弱い人間でした。
子どもの時の非行で警察の世話になり、学歴も職歴もないのでまともな仕事につけず、いじけた気持ちを引きずったまま暴力団に入って虚勢を張っている印象が強いですね。
稲葉さんは道警で銃器捜査を担当、八年間で100丁以上の銃を押収し、「銃器捜査のエース」と呼ばれた。銃の摘発には暴力団関係者に情報提供者(スパイの頭文字Sをとって「エス」)として協力をしてもらうことが必要だった。
稲葉さんは20人のエスを上司に報告して運用していた。
今では考えられないことだが当時は当たり前だった。
彼等と付き合う時は常に自分の方が優位に立つよう気をつけたという。
彼等には「ウソをつかない」「約束を破らない」を守った。
約束を守っている限り彼等は裏切らないから。「今月は数が足りないから出してくれや」と頼むとちゃんと出してくれた。
そんな中で一人のエスに裏切られた。
その男は、頼むと死に物狂いで銃を探し出して来た。ある意味真っ直ぐな性格だった。
ある時、そのエスが稲葉さんの上司から「拳銃100丁出してくれたら、警察の予算から一千万くらいポンと出す」と言われ真に受けてしまった。
稲葉さんは「そんなのホラに決まっているだろう」と言ってもエスはきかなかった。
やがてそれがウソとわかり、ある事情で上司からエスは遠ざけられた。
Sは怒りの矛先を上司だけでなく稲葉さんに向けた。
ある日Sは覚醒剤を持って警察に出頭し、逮捕後の裁判所での勾留尋問で稲葉さんの覚醒剤使用を告発、その後拘置所で自殺してしまった。
稲葉さんは、銃器捜査から外され、閑職に追われた。
孤独感と絶望感、体を張ってやってきた警察官人生を否定されたように感じた。
そして常に「死にたい」と思うようになり、自暴自棄になり覚醒剤使用という第一線を越えてしまった。
今ではそんな自分を恥ずかしいと思い、反省している。
虚勢を張っていても自分自身も弱い人間だった。
稲葉さんは覚醒剤取締法違反などで服役、現在は自身の体験をもとに著書を出している。「恥さらし、北海道警悪徳刑事の告白」興味ある人は読むといい。
テレビドラマや映画で警察の暗部をテーマにする作品がやたらと多い、人間はそれが好きだからなのだろう。
新聞社や雑誌社は「ネタ元」という情報提供者を手足の様に使っている。
裏情報は何より手に入れたいからだ。毎日、車や列車で人身事故が起きている。
そんな中に「エス」や「ネタ元」がいるのではと思ったりする。
特定秘密保護法案の成立が確定的となった。
この国は暗黒の時代に向かって行く。
稲葉圭昭さんは現在六十歳、命を懸けて警察の闇に挑んでもらいたい。
朝日新聞にその写真を大きく出したのは、勇気ある事だ。
日本中の警察を敵に回すのだから。その身を国民が守らねばならない。
「S」はどの社会にもいる。
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