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2014年2月20日木曜日

「特攻服とトライアスロン」


山本良介選手



それでも僕は走り続ける。
濃紺のカッターシャツ、グレーのベスト、黒いウェリントン型の眼鏡、手入れの行き届いた長い髪、清々しい顔、穏やかな語り口。
ひと目見た人はきっとIT関係の若き経営者か、大学の新進教授みたいだと思うだろう。

山本良介(34)日本のトライアスロンの五輪代表選手だ。
といっても二月二十日(木)午前十二時過ぎに初めて知った名前だ。

私が長い間お世話になっている会社に一人の女性がいる。
ずっと仕事させて頂いていたのだが、その女性がトライアスロンをやっている事を最近知った(えーあの女性が、とそれを聞いた時絶句した)。
スリムな体は鍛え抜いた肉体だったのだ。どうりで会社まで自転車で通っている訳だ。
以前骨折したのもトライアスロンだったのだ。

トライアスロンは全く縁の遠いスポーツだった。
余りに過酷だから私には出来る訳がない。水泳1.5km、自転車40kmそしてマラソンを一気にやるのだから。テレビ東京で「will」という番組をやっていたのだ。
ソチ・オリンピック一色なので何か他の番組はないかとテレビ欄を見てトライアスロンの文字が目に入ったのだ。

山本良介選手は、京都の暴走族の総長であった。
幼い頃両親が離婚、母親一人に育てられた。子どもの頃水泳教室に通っていた。
が、中学・高校生となった頃から喧嘩に明け暮れ、やがて暴走族となり特攻服が制服となっていった。母親は警察に相談に行った。

何をしていいか分からなかった若者は暴走しながらも水泳をしに行っていた。
片親だからグレてしまったと思われるのが辛かったと母親は語るが、その顔は苦悩から開放されたアスリートの母親、五輪代表選手の母親の顔だった。暴走族をやめて母親へ恩返しをしたいと決意したのだろう、子どもの頃から敗けず嫌いだった性格に火が付いたのだ。

それからは厳しい、激しい、途方も無い練習の日が続く。
鍛え抜く体は一日休んだら肉体はヤワになってしまう。泳ぎ、走り、ペダルを漕ぐ。
一心不乱という言葉がピッタリの姿だ。トライアスロンは五輪のスポーツの中で一番過酷といっても過言ではないだろう。
そしてジュニア選手権優勝、五輪選考会優勝とその名を高めていった。

だがしかし世界の壁はとてつもなく高く厚い。超人的なアスリートが何十人もいる。
山本良介選手は挫折を繰り返しながら次の五輪を目指す。
トライアスロン普及の為に指導をする姿は心打たれる。

私も母に育てられた、片親と言われた。
横道に走って行ったが母の愛は私を正してくれた。十九歳で横道とオサラバした。
山本良介選手も同じ様であった。母親の愛ほど人生のコーチはいないと私は思う。


今、目の前にグレたり、ヨタったり、親不孝を重ねる若者がいたら決して諦めずに見守ってあげよう。何かのキッカケできっと正しい道を歩き出し、走り出す。

トライアスロン人口は35万人を超え、今大きなブームを呼んでいる。
ビジネスマンや若い経営者たちが増えているとか。一度会ってみたいアスリートだ。
母親への愛を固く誓った人間のオーラを浴びてみたい、何かきっと教えてくれる筈だ。
必ず会いに行く、そしてずっと応援する。
日々修行する若者ほど美しいものはないからだ。

























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