石川県のとある限界集落に一人の若者がきた。
集落には七世帯二十数人しか住んでいない。
三十代ソコソコの若者は無農薬野菜を作りたいと思って来た。
集落は老人ばかりだ。ダメダメ、ヨセヨセ、帰った方が身のためだと老人たちは若者に言うのだが若者の意志は固い。
若者は貯金をして作った100 万円を元手に自分の野菜を作るのだと言う。
集落の人間は話し合い、若者に一軒の家を提供し、その家の前の畑も提供する。
若者は土作りから始める。インターネットで様々な情報を入手する。
魚市場に行って魚のアラを大量に頂いて来る(無料)それにアレやコレや自己流のレシピで肥料を作る。
漬け物樽の様な入れ物にそれを入れて石で押える。だがその異臭は想像をはるかに超えて集落の人から臭い、臭いと苦情をいわれる。
集落の人は小屋を提供する。そこに置くのだが扉を開けると余りの異臭に若者はぶっ倒れそうになる。
そんなことを繰り返しながら、なんとか畑に野菜の種を蒔く。
100 万円の持ち金は直ぐに60 万円に減っていた。
若者の熱意が集落の人々に伝わって行く。
取っかえ、ひっかえ、アドバイスや差し入れを持って来る。
はじめて出来た野菜は虫に喰われてボロボロになる。老女は科学肥料を使わなきゃ同じ事の繰り返しだと言う。でも化学肥料を使ったら僕はここで野菜を作る意味がないという。
次に野菜が出来たら夜中から朝にかけて、イノシシが畑を荒らしまくり全てパアになる。若者は全然メゲない。又、畑を肥やし自前の肥料を土に与え種を蒔く。
そして、一年、二年、若者の作った無農薬野菜はインターネットで販売されている。
又、農協やJAを通さずに自分の名をつけ町に出て売る。他の野菜より高いのだが少しずつファンの輪が広がって行く。
集落にもう一人若者が来た。少し離れた所には都会から離れて来た若者夫婦が(子ども二人)古民家を改装して珈琲店を経営している。(ここは大人気で都会にいた時より収入が増えた)
老人だけの集落はイベントらしいイベントはすっかり絶えていた。
農民は毎日々酒を飲み交わし、語り合わないと心を通じてくれない。若者は毎夜それをする。
やがて収穫の時、若者の父親が集落に手伝いに来る。
白菜、キャベツ、シシトウ。ピーマン、トマト、キュウリ等々。都会のレストランからインターネットで注文が入る。
なんとか食べて行くだけは出来るかもと清々しい笑顔であった。
メガネを外したその二つの黒目は、よく磨かれた碁石の如く美しく輝いていた。
IPS 細胞よりも凄いというSTAP 細胞を発見した、小保方晴子さん(30)の両の目を見ていて、過日NTV のドキュメント番組で見た、集落の若者の目を思い出した。
二人ともメールや、スマホやゲームのやり過ぎで疲れ切った目ではなかった。
若者たちの澄んだ目に会って、この国の若者たちの可能性に大いなる希望を持った。
畑を肥やす若者、試験管とニラメッコする若者。すばらしいではないか。
限界集落ではお正月に何年振りかで獅子舞が行われた。
勿論獅子になっているのは若者、太鼓を叩くのは珈琲店の若き主人だ。
老人たちは底抜けに明るい笑顔でいう。エカッタ、よかった。こんな楽しい正月は久々だと。
春一人の女子小学生が誕生した。珈琲店の上の子が赤いランドセルを背負って記念写
真を撮ってもらっていた。パパもママもキチンをと正装だ。
かつて寺山修司は「君を捨て街へ出よう。」といったが、「街を捨て、村へ帰ろう。」こんな時代も始まっている。
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